第93話 ふたつの墓と、青い石
四日目の夕暮れ、五人は、故郷の丘に立った。
村は、静かだった。焼け跡は雨と季節に洗われ、崩れた家々の骨組みには蔦が絡み、通りだった場所には、夏草が膝の高さまで茂っている。一年と少し。時が、廃墟を、静かな野に変えつつあった。
そして、丘の上の、ふたつの墓。
ルカは、息を呑んだ。墓の周りが、一面の、花畑になっていた。あの日、焼け残った野から摘んで供えた花が、種を落とし、根を広げ、二つの土を、抱くように咲き誇っていた。
「……ただいま。父さん。リーナ」
ルカは膝をつき、それから、後ろに立つ四人を、振り返った。
「紹介するね。……仲間なんだ。すごく、すごく強くて、優しい、僕の仲間」
ドランが黙って剣を置いて一礼し、カイが槍を捧げ、セラが長い祈りを唱えた。最後に、ミラが、リーナの墓の前に、膝をついた。長いこと、何も言わなかった。それから、小さく、口を開いた。
「……初めまして。あんたが最後まで守った泣き虫は、ちゃんと、勇者をやってるよ。……この先は、私が隣にいる。だから——安心して、見てて」
ルカは、懐から、青い石のネックレスを取り出した。そっと、墓石の上に、置こうとする。その手を、ミラが、止めた。
「駄目。持ってなさい」ミラは、ネックレスを取り上げると、ルカの星鉄の剣の柄に、しっかりと、結びつけた。「最後まで、見届けさせてあげて。あんたが全部終わらせるところを、特等席で。……それが、いちばんの供養でしょ」
青い石が、夕陽を受けて、あの日と同じに、きらりと光った。
日が落ちる前に、ルカは、生家の焼け跡へ向かった。半ば崩れた床。あの隠し部屋の戸を、一年ぶりに、開ける。狭い暗がりに降り、光の眼を灯した——瞬間、ルカは、見た。隠し部屋の床、その下に。金色に浮かび上がる、巨大な、封印の紋を。
「……ここだ。ここに、あったんだ。僕は——最後の手記の、真上に隠れてたんだ」




