第91話 絆の炉
儀式は、その夜、大聖堂の奥の間で行われた。
教皇エレナ自らが、アリアの記した式次第どおりに、床に五つの座を描く。必要なのは、術でも、供物でもなかった。ただ、互いを信じる心と——それを、声にすることだった。円座に着いた五人は、順に、言葉を捧げた。
「俺の剣は、もう二度と、焼く側には立たない。この光の、盾になる」ドランが言った。
「湖守の誓いじゃなく——友として。俺の槍は、あんたの隣だ」カイが言った。
「私は、癒します。癒せないと言われたものでも。アリア様の続きを、私が書きます」セラが言った。
「……私の火は、あんたを守るための火。燃やし尽きさせない。絶対に」ミラが言った。
最後に、ルカが、四人を見回した。
「……僕は、独りで燃えません。約束します」
五人の胸の中央に、灯りが点った。金色の細い光の糸が、心と心の間を、静かに繋いでいく。ルカの内で常に燻っていた熱が、すう、と楽になった。溜まらない。流れていく。四つの、あたたかい炉の間を。
「これは……」ルカが目を見開いた、その時。
「……あれ? なんだか、お腹が空いて……ドランさん、今、お酒飲みたいって思いました?」
「む。……分かるのか」
「わ、私も分かります、カイさん今、足の裏が痒い——」
「言うな!!」
絆の炉の副作用——強い感覚や感情が、薄っすらと伝わるらしい。一同が騒然とする中、セラが一人、みるみる蒼白になり、猛烈な勢いで祈りはじめた。「神よ神よ神よ、どうか心の中までは、心の中までは伝わりませんように——!!」。幸い、伝わるのは感覚と危機の気配だけで、思考は漏れないと帳面にあり、セラは崩れ落ちるほど安堵した。何をそんなに、とミラが訝しみ、ルカだけが、きょとんとしていた。
——その和やかさは、夜明けと共に、破られた。
南方の教区から、火急の報せが、鳩で届いたのだ。南街道沿いの礼拝堂が、三夜続けて、黒い炎で焼かれた、と。ドランが地図に三点を打ち、線を引く。その延長線の先を見て、一同の血の気が、引いた。
線は、真っ直ぐに——勇者の村の跡を、指していた。




