第85話 許さない、けれど
ギデオンは、自らの意志で、新グレンへ向かった。
石碑の前で、元帥は鎧を脱ぎ、レイマルの書いた真実の記録を捧げ、土に額をつけた。マルダの慟哭が、谷に響いた。杖が、何度も老いた元帥を打った。誰も、止めなかった。やがて泣き疲れたマルダは、王都での裁きを、と告げ、それから——傍らに控えるドランへ、向き直った。
「……あんたのことも、許さないよ。あたしゃ、死ぬまで許さない」
老婆の眼は、涙で濡れて、それでも、まっすぐだった。
「けどね。あんたがこれから、何を守って生きるのか——それは、見といてやる。それが、あたしの供養の、続きだからね」
ドランは、生涯でいちばん深く、頭を下げた。帰り際、テオが、ぼそりと言った。「……また来い。畑、手が足りない」。それだけで、十分すぎた。
王都での決着は、早かった。病床の老王に代わり、王太子が全権を執り、ギデオンは全ての位を返上。裁きの後は、一兵卒として対魔物の最前線に立つことを、自ら願い出た。そしてラーゼン王国は、対魔王同盟への参加を正式に誓約し、聖都とラナリアへ、使者が発った。二十年ぶりに、この国の触れ書きから、「密告」の文字が消えた。
セラは王都の教団支部で、探し物の尻尾を掴んでいた。聖女アリアの「手当帳」——その原本が、南方の教団本山サンティエルの大書庫に眠っているという目録。そして写本の断片に、一行だけ、読める文字があった。
『光ノ後ニハ、深キ眠リヲ。独リニテ、燃ヤスコト勿レ』
「独りで燃やすな……仲間と共にあれ、ってことでしょうか」
「解読は本山でね。それまでこの人の睡眠は、私が管理するから」ミラが、腕組みで宣言し、ルカの強制昼寝制度が、正式に発足した。
出立の朝、ドランはカイを呼び、向かい合って剣と槍を構えさせた。
「カイ。今日からお前に教えるのは、守り切るための型だ。……俺が二十年かけて、拾い直した剣の、全部だ」
「——望むところだ、師匠!」
五人は、南へ。聖女の書庫が待つ、サンティエルへと歩き出した。




