第83話 槍が示すもの
行軍隊形のままの軍は、横腹を突かれた。
前衛が瞬く間に崩れ、悲鳴が上がる。だが、村の側は——備えていた。
「今だ!! 堰を切れ!!」
カイの号令と共に、村人たちが川の堰板を引き抜いた。奔った水が窪地に溢れ、魔物の突進が、泥に呑まれて鈍る。「東の畝の裏に、老人と子ども! 動ける者は柵の二列目!」湖守の若者の声が、戦場を貫いた。兵たちは一瞬、少年の指図に戸惑った。だが、泥に足を取られた一個小隊を、カイの槍が水面を走って救い出した瞬間、迷いは消えた。
「あの槍に、従え!!」隊長格が叫び、軍と村が、ひとつの陣になった。
ミラの炎が、帳のように立ち上がる。兵も、村人も、分け隔てなく守る火の壁。セラは矢の下を駆け、鎧の兵と、鍬の農夫を、同じ手で癒し続けた。密告された魔導師の一家までもが、飛び出して、兵たちの傷を塞いで回った。そしてドランは、二十年ぶりに、ラーゼンの兵と肩を並べて剣を振るっていた。かつて焼いた側の男が、かつての戦友たちの背を、守り続けた。
大型の魔物が、本陣——ギデオンへと迫る。
「ミラ! 絞るよ、二分だけ!」
「二分きっかりね!! 一秒でも超えたら薬草茶!!」
戦場の真ん中で交わされる約束に、金色の閃光が答えた。ルカの一刀が、巨躯を両断する。それが、決着の合図だった。
魔物の骸だけが残った泥の戦場で、ギデオンは、立ち尽くしていた。「裏切りの村」の民が、我が兵のために血を流し、傷を塞いでいる。その光景を、昏い眼が、ただ、見ていた。




