第81話 二度目の火種
ロズ村へは、夜通し歩いた。
道すがら、ドランは、あの夜のことを、初めて仔細に語った。密告から処断まで、わずか三日だったこと。証拠とされた内通の手紙が、あまりに突然、あまりに揃いすぎていたこと。そして——命令を下したギデオンが、その少し前から、人が変わったようだったこと。
「南から来た顧問だか商人だかと会って以来、って噂だった。姿を見た者は少ない。ただ……女で、目の色が、変わってたと」
「紫」ミラが、即座に言った。ドランが、頷いた。
「魅了……」セラの顔が、蒼白になった。「二十年前から、この国に、あの方の糸が……」
夜明け、ロズ村に着いた。急ごしらえの柵の内側で、農夫たちが震えながら鍬や鎌を握っていた。村の「罪」は、西から逃れてきた魔導師の一家を匿ったこと、ただそれだけだった。癒し手の家族で、村の病人を治して回っていたという。
「勇者様だ……聖都の、金色の光の……」
ルカの顔を知る者がいた。囁きが波のように広がり、絶望しかなかった村に、細い希望が灯る。ルカは、村の真ん中に立ち、はっきりと告げた。
「僕たちは、ここに残ります。誰も、焼かせません」
カイは、すでに動いていた。村を一周し、地形を読む。村の裏手を流れる川、その堰。「湖守の技が使える」と、若い槍士の眼が光った。夜、丘の向こうに、無数の松明が見えた。軍だ。夜明けと共に、来る。




