第8話 闇の中で
ルカは、隠し部屋の中にいた。テーブルをずらし、床板を叩いて開けた、暗く狭いあの空間。父に言われたとおり、ルカは膝を抱えてそこにうずくまっていた。頭の上では、外の物音が絶え間なく響いている。何かが崩れる音、魔物の咆哮、そして、人の悲鳴。
怖かった。とにかく怖かった。
もし見つかったら、自分も殺されてしまう。そう思うと体の震えが止まらなかった。ルカは口を両手で押さえ、声を殺して、ただひたすら時間が過ぎるのを待った。涙が止めどなくあふれ、頬を伝って膝を濡らしていった。
暗闇の中で、ルカはこれまでの日々を思い出していた。
母の顔を、ルカは知らない。自分を産んだとき、母は命を落としたのだと、父から聞かされていた。それでも父は、よく母の話をしてくれた。二人はとても仲のよい夫婦だったという。ルカをその身に宿していたとき、母はいつもお腹をさすりながら、こう口にしていたそうだ。「この子はね、みんなの希望になる子なのよ」と。なぜ母がそんなことを言っていたのか、ルカにはずっとわからなかった。けれど、いまならわかる。母もまた、あの神の言葉を知っていたのかもしれない。
父との暮らしは、あたたかかった。剣の稽古のときは厳しく、何度も叱られた。けれど稽古が終われば、父はいつもの優しい父に戻った。一緒に川へ魚を釣りに行ったこと。肩車をしてもらって、見たこともない遠くの景色を眺めたこと。冬の夜、暖炉のそばで身を寄せ合い、勇者の昔話を聞かせてもらったこと。そのどれもが、かけがえのない宝物だった。
そして、リーナ。泣いてばかりの自分を、いつも笑って励ましてくれた幼馴染。「弱くたって、大丈夫だよ」と言ってくれた、あの優しい声。先日贈った青い石のネックレスを、嬉しそうに首にかけてくれた、あの横顔。
——みんな、無事でいて。
ルカは闇の中で、ただそう祈り続けた。
どれほどの時間が過ぎただろう。一日、二日。やがて、頭上の物音が、少しずつ遠ざかっていった。咆哮も、悲鳴も、崩れる音も。すべてが、静かになっていった。そして、村は、完全な静寂に包まれた。




