第7話 託された言葉
「ルカ!」
聞き慣れた声に、ルカははっと我に返った。煙の向こうから駆けてくる人影——父だった。手には、ふだん壁にかけられていたあの剣が握られていた。父はルカの肩を強くつかむと、まっすぐにその目を覗き込んだ。
「よく聞け、ルカ。お前には、勇者の力が宿っている」
「そ、そんな……こんな僕が、勇者になんてなれるわけないよ」
涙声で首を振るルカに、父は静かに、しかし揺るぎない声で告げた。
「お前が生まれたあの日、神が我が家に現れた。そして言われたのだ。いずれ魔王が復活する、そのときが来たら、この子を私のもとへ寄越すように、と」
ルカは言葉を失った。
「村から北へ。谷の奥に、古い祠がある。騒ぎがおさまったら、お前はそこへ行くんだ。神がお前を待っている」
父の手に、力がこもった。
「お前が死ねば、人間の世界は終わる。お前は、みんなの希望なんだ。だから——あの部屋に隠れろ。何があっても出てくるな。騒ぎがおさまるまで、じっと身を潜めているんだ」
ルカの脳裏に、いつかの夕暮れがよみがえった。床下の隠し部屋。真剣な顔で「もし村に何かあったときは」と告げた父。あのときわからなかった言葉の意味が、いま、最悪の形でつながった。
「父さんは!? 父さんも一緒に来てよ!」
すがりつくルカを、父はそっと引き剥がした。その顔には、これまで見たことのない、覚悟のこもった表情が浮かんでいた。
「お前が生まれて、神が現れたあの日——私はこう思ったんだ。ああ、うちの子は、選ばれた人間なんだ、とな」
父はわずかに笑った。それから剣を握りなおし、炎の中へと向き直った。
「行け、ルカ! 生きろ!」
そう叫ぶと、父は振り返ることなく、魔物の群れの中へと駆け出していった。その背中が、ルカの見た父の最後の姿だった。




