第79話 ラーゼン王国
国境の検問は、これまでのどの街よりも、殺気立っていた。
槍衾の門。荷を底まで検める兵。壁に貼られた無数の触れ書きには、同じ文言が躍っていた。「裏切り者を密告せよ。魔に通じる者を見逃すな」。セラの神官証でどうにか通されたものの、五人の背には、街道を行く間じゅう、監視の視線が張り付いていた。
「……国が、病んでる」ミラが、低く言った。「魔物より先に、人を疑ってる」
最初の宿場町で、事情が見えてきた。老王は病床に伏し、実権を握るのは軍務の頂点——ギデオン元帥。二十年来、「内なる裏切り」を狩り続けてきた男だという。密告の制度が敷かれ、疑われた村や商家が、いくつも「見せしめ」に潰されてきた。人々は元帥を恐れ、そして魔物の脅威の前では、その苛烈さに、すがってもいた。
ギデオン。その名を聞いた瞬間、ドランの持つ杯が、微かに、鳴った。
その夜、ドランは焚き火の前で、四人に告げた。
「……ギデオンは、俺の元の上官だ。グレンを焼けと命じたのも、あの人だ」低い、乾いた声だった。「そして、ここから半日の谷に……新グレンがある。生き残りが、村を建て直したと聞いた。……行かせてくれ。俺の、巡礼だ」
「一人で、ですか」ルカが、静かに訊いた。
「……一人で行くべき場所だ。だが」ドランは、火を見つめたまま、言葉を探した。
「一緒に行きます」ルカは、答えを待たなかった。「見届けるのも、仲間の役目だと思うから」
ドランは何も言わなかった。ただ、その夜、彼の剣の手入れは、いつもより、長かった。




