第77話 山を下りる者たち
魔将が去った雪原に、ミラが、真っ先に駆け寄った。
そして、へたり込むルカの前髪——白い一房を、無言で、つまんだ。
「……これ、何」
隠せる段階は、もう過ぎていた。ルカは、全部、話した。光は命を薪にすること。ルーカスの白髪のこと。風の教えで灼かれにくくはなったが、代償が消えたわけではないこと。聞き終えたミラは、泣かなかった。怒鳴りもしなかった。ただ、白い一房を握ったまま、額がつくほど顔を寄せて、言った。
「……いい? これ以上、白くなる前に、全部終わらせる。私の火は、そのために強くなる。——あんたを、燃やし尽きさせたりなんか、絶対、させないから」
ベルガを倒した日から探し続けていた「何のために戦うのか」。その答えの輪郭を、ミラは今、確かに掴んでいた。セラも、拳を握った。聖女アリアは、ルーカスの傷を癒し続けた人だ。光の代償を和らげる術を、誰かが記録しているとすれば、アリアの教団しかない。「調べます。教団の書庫を、全部。……癒せないなんて、まだ決まってません」
そして、ルカは、風の中で知ったことを、告げた。終わりの地——最後の手記の眠る場所は、おそらく、始まりの場所。
「……僕の、村です」
一同が、凍りついた。そして同時に、思い出した。ゼクスの、去り際の言葉を。最後の火を、先に消す——あの狂信者は、終わりの地を、探している。場所を知らぬまま、だが、確実に。
「今すぐ村へ、とはいかん」ドランが、地図を広げた。「俺たちが真っ直ぐ向かえば、奴を案内するようなもんだ。それに、神の言葉を忘れるな。魔王に届くには、力と——仲間だ。国を、動かさにゃならん」
行き先は、南に決まった。大陸中央の国々へ。ネフィスの毒が巡る宮廷を正し、魔王軍に抗う同盟を築くために。セラの教団の大書庫も、南にある。地図をなぞっていたドランの指が、ある一点で、止まった。ラーゼン王国、旧領。——グレンの村の、ある土地。ドランは何も言わなかったが、その横顔の強張りに、カイだけが、気づいていた。
——同じ頃、魔王城。
玉座のヴァロスの耳に、蝙蝠が二つの報せを注いでいた。ガルドスが勇者と一騎打ちに及び、剣を納めて去ったこと。そして、ゼクスからの、毒のような讒言——ガルドスは偽神の光に魅入られた、背信者である、と。
ヴァロスは、どちらにも、答えなかった。ただ、玉座の肘掛けに頬杖をつき、誰にともなく、呟いた。
「……勇者、ルカ。貴様は——何のために、剣を取る」
問うた声の底で、千年、握り潰し続けてきた何かが、また、小さく、疼いた。
白い頂を背に、五つの影が、南へ下りはじめる。人の国々と、それぞれの過去が待つ土地へ。旅は、新しい章へと、続いていく。




