第76話 千年の続き・後
全力のガルドスは、天災だった。
一撃ごとに雪原が裂け、岩が割れる。ルカは流れる光の全てで凌いだが、受け流すたび、腕が、骨が、悲鳴を上げた。流れを越えて、光を絞り出す。祠の風の警告が、頭の隅で鳴っていた——絞れば、薪は燃える。知っている。それでも、絞るしかなかった。
視界が、白く霞みはじめる。体の芯が、灼けるように熱い。それでも、ルカは、退かなかった。ここで退いたら、聞けないのだ。千年前の、答えを。
「——ああああああっ!!」
残る光の全てを、星鉄の一刀に注ぎ、ルカは、正面から撃ち込んだ。金色の奔流と、千年の大剣が、激突する。星鉄は——耐えた。バーサの剣は、悲鳴ひとつ、上げなかった。だが。
激突の果て、ルカの刃は、寸前で巻き上げられ、ガルドスの切っ先が、ルカの首筋の、髪一筋の距離で——止まった。
「——それまで」
静寂。ルカの膝が、雪に落ちた。光は、涸れていた。そして、乱れた前髪の中に——一房だけ、雪のように白い髪が、生まれていた。輪の外で、ミラが、口を押さえた。
それでも、ルカは、剣を杖に、立ち上がった。震える足で。空っぽの体で。
「まだ……立てます」
ガルドスは、長いこと、その姿を見下ろしていた。やがて、大剣を、静かに納めた。
「剣は、それがしの勝ちだ。……だが、見事。貴様は正しく、あの男を継いだ。いや——あの男より、真っ直ぐやもしれぬ」
魔将は、雪の上に、どかりと腰を下ろした。座れ、と促され、ルカも崩れるように座る。約束の、答えの時間だった。
「三度目、それがしを降した祖は、こう言った。——『あなたを斬っても、この戦いは終わらない。終わらせ方を、僕は探します』とな。……それがしは千年、あの言葉の意味を、待った」
そして魔将は、さらに古い話を、した。千年より、もっと前。先に海を渡ったのは、人間だったこと。魔の大陸の岸辺の村々が、焼かれ、奪われたこと。初代魔王は、焼かれた村の、生き残りだったこと。
「……それがしも、焼かれた側から始まった。——貴様と、同じにな、勇者の末」
ルカは、言葉を、失った。憎しみの始まりが、自分と同じ形をしていた。
「最後に、ひとつ」ガルドスは、立ち上がった。「今の王の瞳には——父君の憎しみすら、無い。空だ。あの御方が何のために征くのか、千年仕えたそれがしにも、視えぬ。……貴様がいずれ王とまみえる時、剣より先に、それを視てみせよ」
魔将は、背を向けた。「次にまみえる時、それがしは四天王として立つ。今日の情けは、無い。——励め、風の勇者」
漆黒の影は、吹雪の中へ、山脈が歩み去るように、消えていった。




