第66話 雪あかり祭り
「——ほら、ぼさっとしない」
気づくと、隣にミラが立っていた。祭りに合わせて、宿の女将に借りたという臙脂の肩掛けを羽織っている。見慣れない姿に、ルカは一瞬、返事が遅れた。
「な、なによ」
「……似合ってる、と思って」
「〜〜っ、そういうのいいから! ほら、あっちで甘酒配ってる。行くわよ」
ミラはずんずん先を歩き、ルカはその後を追った。ドランは早々に村の年寄り連中に捕まって酒盛りに引きずり込まれ、セラは灯籠づくりの子どもたちに囲まれ、カイは射的の屋台で湖守の名にかけて熊のぬいぐるみに挑んでいる。気づけば、二人きりになっていた。
灯籠の並ぶ坂道を、二人はゆっくり登った。甘酒の湯気。雪を踏む音。言葉は、少なかった。けれど、気詰まりでは、なかった。
坂の上の小さな社の前で、ミラが足を止めた。眼下に、光の海になった村が広がっている。
「……ねえ、ルカ」ミラは、村を見下ろしたまま言った。「あの子の、ネックレス。まだ、持ってるんでしょ」
ルカは、頷いた。ミラは、しばらく黙って、それから、白い息と一緒に、言葉を吐いた。
「持っててよ、ずっと。……捨てろとか、忘れろとか、私は絶対言わない。あの子の分まで背負って、それでもちゃんと前を向いてるあんたのこと——」
そこで、ミラは言葉を切った。耳が、灯籠の火のせいだけではなく、赤い。
「……なによ」
「何も言ってないよ」
「顔が言ってる!」
そのとき、坂の下から、カイの雄叫びが響いた。振り向くと、両腕に大小七つの熊のぬいぐるみを抱えたカイが、屋台の親父に土下座されている。「勘弁してくだせえ、店が潰れちまう」。祭りの人垣が、どっと笑った。
ミラも、こらえきれずに吹き出した。ルカも笑った。二人の白い息が、灯籠のあかりの中で、ひとつに混ざって、夜空へ昇っていった。
——その様子を、社の陰から見つめる小さな影があった。セラである。両手で自分の頬を挟み、口の中で、ものすごい早さで祈りを唱えていた。
「神よ……お二人の行く道を祝福したまえ……祝福したまえ……。……あれ? なんでしょう、この胸の……い、いえ、何でもありません! 何でも!」
聖女候補の煩悩が浄化されるまで、あと三回の祈りを要した。




