第62話 千年の対峙
里の入り口の鐘が、乱打された。魔物か——武器を掴んで駆け出した五人は、里の門前で、足を止めた。
雪原の真ん中に、それは、一人で立っていた。
漆黒の古鎧。城門のような大剣を、雪に突き立てて。軍勢はない。従者もない。ただ一人。なのに、その気配は、聖都で見たベルガの軍勢よりも、重かった。
「……下がってろ、里の衆」ドランの声が、掠れた。「ありゃあ……格が、違う」
兜の奥から、千年を経た声が、静かに響いた。
「——四天王が一、ガルドス。勇者の末に、問いたき儀あって参上した」
ルカは、震える足で、前へ出た。金色の眼が、目の前の存在を視る。視て——絶望しかけた。ベルガが山なら、これは、山脈だった。底が、視えない。
「戦いに、来たんですか」
「否」老将は、静かに首を振った。「今宵は、問いに来た。……小僧。千年前、それがしは貴様の祖と、三度、剣を交えた。あの男の光は、哀しい光であった。斬るたびに、細っていく光よ。——貴様のその光も、いずれ、貴様を喰らう。知った上で、なお征くか」
「……はい」ルカは、即答した。震えたまま、けれど、迷いなく。「知った上で、行きます。祖先も、きっとそうだったから」
兜の奥で、古の眼が、わずかに、細められた。
「……よい眼だ。あの男と、同じ眼よ」ガルドスは、大剣を担ぎ直した。「ならば約束しよう。貴様が北の頂の”風の祠”を越え、その光を完成させた暁に——それがしが、貴様の前に立つ。千年前の続きを、な。それまでは、何人たりとも貴様に手出しはさせぬ。……励め、勇者の末よ」
漆黒の影は、それだけ言い残し、吹雪の中へ、溶けるように消えた。
誰も、しばらく、動けなかった。敵に守られ、敵に待たれる。そんな戦いが、あるのか。ただ一人、ドランだけが、呟いた。
「……武人、か。千年物の、な」




