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泣き虫勇者は今日も泣かない 〜千年前の光を継いだ落ちこぼれ、涙の数だけ強くなる〜   作者: TAKA


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第58話 雪崩の谷

連峰の麓、最後の宿場で、五人は嫌な報せを聞いた。


鍛冶の里ホロウへ続く谷道が、ふた月前から、閉ざされているという。雪崩ではない。「白い獣が出る」と、猟師たちは口を揃えた。氷の鎧をまとった巨大な魔物が谷に居着き、通ろうとした隊商が、二つ、還らなかった。里との行き来は絶え、ホロウは今、雪の中で孤立している。


「氷の巨魔……厄介だな」ドランが唸った。「炎が弱点だろうが、谷でド派手にやれば、今度は本物の雪崩が来る」


「つまり、私の出番だけど、加減しろってことね」ミラが、指先に小さな火を灯して消した。ラナリアで覚えた、絞る火。あの技が、まさかこんな場所で要るとは。


谷に入って二日目、それは来た。


吹雪の白に紛れて、氷の体は見えなかった。だが、ルカの金色の眼だけが、雪の中で脈打つ魔力の芯を捉えていた。「右の斜面!! 来る!!」


戦いは、静かで、恐ろしかった。叫べば雪が落ちる。ドランとカイが交互に注意を引き、セラの結界が氷の礫を受け、ミラの絞られた火が、針のように関節だけを溶かしていく。そしてルカの光の剣が、露わになった魔力の芯を、正確に貫いた。


巨魔が崩れ落ちたとき、誰も、勝ち鬨を上げなかった。全員が黙って空を見上げ、雪の斜面が沈黙を守っているのを確かめてから、ようやく、白い息を長く吐いた。


「……強くなったな、お前ら」


ドランのその一言が、何よりの勝ち鬨だった。

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