第57話 北へ向かう道
ラナリアを発って、道は日ごとに、北へ登っていった。
湖畔の柔らかな景色は、じきに針葉樹の森へ変わり、朝ごとに、吐く息が白くなった。行く手には、大陸の背骨と呼ばれる北の連峰が、壁のように空を塞いでいる。あの雪嶺のどこかに、星鉄を打つ、鍛冶の里がある。
五人になった旅は、賑やかになった。とりわけカイは、初めての「外」に、目を輝かせっぱなしだった。湖の外を、彼はほとんど知らなかったのだ。セラと二人、行路の写しを覗き込んでは、千年前の記述と目の前の景色を照らし合わせている。
「ここです、この丘! 『ヴェイル、崖より足を滑らせ、湖の男が山で溺れかけると皆に笑わる』……ご先祖様、何やってるんですか」
「う、うるさいな! 千年前のことだろ!」
焚き火を囲む夜、笑い声が絶えなかった。ミラも、いつの間にか、その輪の中で笑うようになっていた。ドランだけが、少し離れて剣を研ぎながら、その光景を目を細めて眺めている。
けれど、ルカはときどき、輪の外の闇を、じっと見つめることがあった。
——視られている。
光の眼を得てから、感じるようになった気配だった。敵意ではない。殺気でもない。ただ、遠くから、静かに、値踏みするような視線。振り返っても、そこには夜の森があるだけだった。
「どうしたの?」ミラが訊く。
「……ううん。何でもない」
その夜も、遥か後方の尾根に、漆黒の鎧が、彫像のように佇んでいた。千年の魔将は、急がない。ただ、光が熟れていくのを、見ている。




