第55話 湖上の決戦
ルカの叫びが、戦いの形を決めた。
ドランは、剣の峰と盾で、操られた兵を打ち倒しては、その体を敵の刃から庇った。「二度と……二度と、間違えるかよ……!!」その剣筋に、迷いはなかった。カイは水面を蹴って走り、槍の柄が、兵たちを次々と眠らせていく。セラは結界を張り、敵味方の別なく、傷ついた者へ癒しの光を注いだ。そしてミラは——殺さぬ火を、放っていた。灼き尽くさず、ただ足を止め、剣を落とさせるためだけの、細く制御された炎。それは彼女が扱った中で、いちばん難しい火だった。
ルカは、操られた兵に触れては、光で靄を払い続けた。一人払うごとに、力が、ごっそりと削られていく。それでも、やめなかった。
「小賢しい——!!」
ネフィスの幻影が、十重二十重に増殖する。だが、光の眼は、その中のたった一つ、本体だけを射抜いていた。ミラの火壁が湖への退路を焼き塞ぎ、カイの槍が影を縫い止め——そして、ルカの光の刃が、紫紺の胴を、深々と裂いた。
絶叫が、湖を渡った。だが次の瞬間、大蛇の体は、ぬけがらの皮だけを残して崩れ、小さな紫の蛇が、血を引きながら湖面を走った。
「……覚えておけ、小僧……妾の撒いた種は、大陸中の宮廷で……もう、芽吹いておるわ……!!」
呪いの声を残し、蛇は、湖の深みへと消えた。
戦いが、終わった。解放された兵たちが、己の手を見つめて泣き崩れる。そして両国の王は、言葉もなく、立ち尽くしていた。敵国の兵を癒して回る小さな神官と、満身創痍で、それでも誰一人殺さなかった、金色の少年の姿を。




