第48話 湖上の都
丘を越えた瞬間、視界いっぱいに、水平線のような湖が広がった。
ミレナ湖。その岸辺から沖へ、幾本もの橋で結ばれた白い都が、水面に浮かんでいた。湖上都市ラナリア。水路を小舟が行き交い、白壁が水に映る、絵のように美しい街——のはずだった。
橋の検問には殺気立った衛兵が並び、対岸には両国の軍旗が睨み合い、荷を畳んで逃げ出す商人の列が続いていた。美しい都は、開戦前夜の張りつめた空気に、窒息しかけていた。
セラの神官証で街に入り、教会の宿坊に身を寄せると、事件の詳細が、少しずつ見えてきた。殺された特使の胸を貫いていたのは、この街の祠を千年守ってきた湖守——ヴェイル家に伝わる、神槍だったという。当主ロディスは捕らえられ、祠は封鎖。アルドスは「レンドルとラナリアの狂言」と唱え、レンドルは「アルドスと湖守の仕業」と唱え、双方が都に最後通牒を突きつけていた。
「ヴェイル……」ルカは、手記の写しの一節を思い出していた。千年前、ルーカスがこの地で得たという、二人目の仲間。水の槍士、ヴェイル。
その夜、封鎖された祠の門前に立ったルカたちの背後で、鋭い誰何の声がした。
振り向くと、月明かりの下、槍を構えた一人の少年が立っていた。歳のころは、ルカと同じくらい。その切っ先は、まっすぐにこちらを向いていた。
「……何者だ。この期に及んで、湖守の祠に、何の用だ」




