第47話 人の戦火
聖都を発って、十日あまりが過ぎた。
東へ進むにつれ、街道の景色が、また変わりはじめた。焼けた村は、相変わらず点々と現れる。けれど、その傷跡が、これまでとは違っていた。壁に残るのは爪痕ではなく、剣の傷と矢の穴。焼け跡には、軍旗の燃え残りが落ちている。魔物の仕業では、なかった。
「……人間が、やったんですか。これ」
ルカの問いに、ドランは、苦い顔で頷いた。
「東方はな、昔からきな臭いのさ。湖を挟んで、北のアルドス王国と、南のレンドル王国。百年越しの犬猿の仲だ。そこへ魔物禍で、土地も食糧も足りなくなった。……外の敵より、隣の敵のほうがよく見える。人間ってのは、そういう生き物だ」
道行く避難民は、魔物からではなく、徴兵と戦火から逃げていた。「アルドスとレンドルが、また始める」と、誰もが口々に言った。きっかけは、ひと月前の事件だという。両国の和平会談が開かれていた中立の湖上都市ラナリアで、レンドルの和平特使が、何者かに殺されたのだと。
「ラナリア……勇者様の行路の、次の地です」セラが、写しの地図を握りしめた。「水の祠が、ある街です」
ミラは、黙って焼け跡を見つめていた。人間が人間を焼いた跡は、魔物に焼かれた彼女の故郷と、同じ匂いがした。
「……魔物だけで、手一杯だってのに」
その呟きは、誰にともなく、風に消えた。魔王を前にして、なお殺し合う人間たち。ルカの胸に、これまでとは種類の違う、重たいものが沈んでいった。




