第43話 結界、砕ける
二日目の朝。ベルガは、宣言どおりに来た。
前触れも、軍勢の先導もなかった。巨人はただ一人、大斧を引きずって歩み寄り、結界の正面で、それを無造作に振りかぶった。
一撃。世界が白く明滅し、都中の窓が震えた。二撃。虹色の膜に、蜘蛛の巣状の亀裂が奔る。大聖堂の最奥で、結界の要たる聖女の水晶が、悲鳴のような音を立てた。
そして、三撃目。
千年、都を守り続けた光の膜は——硝子のように、砕け散った。
「開いたぜえ!!」
ベルガが、砕けた正門から都へ踏み込む。迎え撃った聖騎士たちが、大斧の一薙ぎで、まとめて宙を舞った。ガイウスが割って入り、渾身の剣で斬りつけるが、刃は分厚い皮膚に浅く食い込んだだけだった。返す柄の一打が、歴戦の騎士団長を壁まで吹き飛ばす。
「ガイウス!!」
駆けつけたドランに、血に濡れた旧友は、それでも笑った。
「……行け。聖堂を、頼む……」
ベルガの狙いは明白だった。避難民の詰まった、大聖堂。巨人は逃げ惑う人々を眺め、心底愉しそうに舌なめずりをした。
その進路に、二つの影が立ち塞がった。ドランと——ミラ。
ミラの足は、震えていた。あの夜の恐怖が、体を凍らせようとする。勝てない。知っている。届かない。知っている。それでも。
視界の端に、聖堂の前へ走り込むルカが見えた。震えながら、それでも剣を構えて。峡谷の夜に聞いた声が、耳の奥で蘇る。——弱いから、です。もう、隠れて聞いてるだけなのは、いやなんです。
ミラは、息を吸った。震えは消えなかった。消えないまま、両手に炎を灯した。
「……私も、いる」
ベルガが、嬉しげに斧を担ぎ直した。
「いいねえ、折れてなかったか、その眼。——なら、まとめて狩ってやるよ!!」




