第42話 城壁の攻防
夜明けとともに、地鳴りが来た。
丘という丘を、黒い波が越えてくる。数千の魔物の軍勢。空には翼持つ影の群れ。そのすべてが、雄叫びとともに白亜の都へ殺到した。
「放てえっ!!」
ガイウスの号令で、矢と魔法が降り注ぐ。虹色の結界が下級の魔物を弾き、焼く。だが、巨大な魔物が岩を投げ、体当たりを重ねるたび、光の膜は悲鳴のように軋んだ。
ルカは、城壁の上にいた。結界を抜けて壁に取りつく魔物を、騎士たちと迎え撃つ。恐怖はある。手も震えている。それでも、剣は振れた。短く、瞬くように、刃が金色を帯びる。グラムの丘で掴んだ、数瞬の光。それが騎士たちの窮地を、幾度も救った。
「見ろ……金の光だ」「勇者様の光だ……!」
囁きが、壁の上を伝っていく。伝説が、目の前で剣を振るっている——それだけで、折れかけた兵たちの膝が、立ち直った。
ミラの炎は、別物になっていた。憎しみで燃やす火ではない。壁を越えかけた魔物を正確に撃ち落とし、崩れた箇所に火壁を立てて避難路を守る火。守るために使う火が、こんなに熱いなんて。彼女は歯を食いしばりながら、初めてそれを知った。
聖堂前では、セラが駆け回っていた。矢の雨の下、運ばれてくる負傷者に、次々と癒しの光を注いでいく。小柄な体の、どこにそんな力があるのか。
「死なせません……! 一人も、死なせませんから!」
日が落ちるころ、第一波が引いた。壁は、守り切った。だが騎士団の三分の一が、もう立てなかった。
そして闇の向こうから、山のような影が、初めてゆっくりと歩み出た。
「よお、勇者の子ォ。いい光じゃねえか」ベルガの哄笑が、都全体を撫でた。「明日は、俺が行く。——精々、眠っとけや」




