第40話 玉座の影
魔王城、玉座の間。
一羽の黒い蝙蝠がヴァロスの指先に止まり、南方の報せを囁いた。勇者の血を引く少年が、生きていること。金色の光を宿していること。ベルガが、聖都ごとそれを狩ろうとしていること。
「……生きていた、か」
「ベルガに伝えよ。——首を、持て」
短く命じたとき、闇の奥から、鎧の軋む音がした。ガルドスだった。古の魔将は玉座の前に膝をつき、兜の奥から低く願い出た。
「我が王よ。この老骨に、その小僧をこの目で確かめる許しを。千年前、それがしは、あの光とまみえております。あれが本物か、偽物か——見極めるべきかと」
ヴァロスは、しばし黙し、頷いた。
「行け。ただし、手は出すな。狩りは、ベルガのものだ」
「御意」
闇に消えるガルドスと入れ違いに、扇の陰から、ネフィスの含み笑いが漏れた。
「殿方は皆、勇者、勇者と……妾は妾で、東の国の仕込みを進めておりますわ。人間とは、便利なもの。金と玉座をちらつかせれば、同胞の背でも、喜んで刺しますのよ」
「偽りの神の火は……我が手で、消し去らねばならぬ……」
白い仮面のゼクスが、祈りのような呪詛を、ぶつぶつと垂れ流す。
やがて皆が消え、一人になった玉座で、ヴァロスは自分の手のひらを見下ろした。
——支配した、その先に、何がある。
また、あの声がした。ヴァロスは目を閉じ、それを握り潰す。
「……父上の意志が、私のすべてだ」
空の玉座の間に、その声だけが、虚ろに響いた。




