第38話 白亜の聖都
間道を抜けて三日目の朝、視界が、ひらけた。
丘陵を背に、白亜の城壁が朝日を弾いていた。壁の内には、天を突く大聖堂の尖塔。そして街全体を、うっすらと虹色に輝く光の膜が包んでいる。神殿の結界——千年、この都を守り続けてきたという、聖なる守りだった。
聖都サンクレア。前勇者を神の使いとして祀る、大陸最古の信仰の都である。
門前は、避難民でごった返していた。三人が「魔物の大軍が迫っている」と訴えても、門衛は取り合わない。同じ報せなら、もう百も聞いたという顔だった。押し問答になりかけたそのとき、低い声が割って入った。
「——ドラン? ドランじゃないか」
白い外套をまとった、壮年の騎士だった。ドランの顔が、強張った。
「……ガイウス」
聖騎士団長ガイウス。かつてドランと同じ隊で剣を振るった、旧友だという。生きていたのか、と絞り出すガイウスに、ドランは目を伏せたまま、用件だけを短く告げた。四天王ベルガ。数千の軍勢。進路は、この聖都。
ガイウスの顔色が、変わった。
「……ついに、来たか。通せ! 大神官様にお目通りを願う!」
大聖堂の回廊を急いでいると、前方から、書物を山と抱えた小柄な神官が駆けてきて、見事に転んだ。ばさばさと散らばる本。慌てて拾い集める、白い祭服の少女。
「も、申し訳ありません! ……あら?」
少女は、ルカの顔をまじまじと見た。それからガイウスに耳打ちされ、目を、これ以上ないほど見開いた。
「ゆ、勇者様の……末裔!? この、方が!?」
期待に輝いた瞳が、ルカの頼りない立ち姿を上から下までなぞり——あからさまに、しぼんだ。
「……本当に?」
「セラ! 失礼だぞ!」
見習い神官のセラ、というらしい。ルカは、苦笑いするしかなかった。伝説と本物の落差に落胆されるのは、もう、慣れっこだった。




