第33話 ミラ
少女の名は、ミラといった。
村人たちが、涙ながらに礼を言っても、ミラはにこりともしなかった。「礼はいらない。魔物を焼くのは、私の勝手でやってることだから」とだけ言い捨てて、さっさと荷物をまとめはじめる。その素っ気なさは、あたたかかったリーナとは、まるで正反対だった。
顔だけが、同じなのだ。それが、かえってルカの胸を、ざわつかせた。気づけば、また彼女を見つめてしまっている。
「……ねえ、あんた」ミラが、苛立った声で振り向いた。「さっきから、その目、なに? 気持ち悪いんだけど」
「ご、ごめん……。君が、その、死んだ幼馴染に、あんまり似てるから」
「知らないわよ、そんなの。私は私。あんたの知り合いの代わりじゃない」
ぴしゃりと、突き放された。ドランが、まあまあ、と間に入り、湯を沸かして三人分の茶を淹れた。焚き火を囲むうちに、ぽつり、ぽつりと、ミラの素性が漏れてきた。
彼女の故郷は、南方の町だという。半年前、魔物の軍勢に襲われ、一夜で灰になった。ミラはその日、たまたま薬草を採りに、町の外へ出ていた。戻ったとき、そこにあったのは、燃え尽きた家と、家族の亡骸だけだった。
「……軍を率いてたのは、斧を担いだ、化け物みたいな大男。笑いながら、町を焼いてったって。生き残りが、そう言ってた」ミラの瞳に、炎が揺れた。「四天王の、ベルガ。私は、あいつを追ってる。あいつをこの手で焼き殺すためだけに、生きてる」
ベルガ。トルムの酒場で聞いた、その名前。南方を焼いて回っている、四天王。
ルカの中で、何かが、繋がった。
「……僕の村も、南にあったんです。ふた月ほど前、魔物の大軍に襲われて、滅びました。父も、幼馴染も、みんな」
ミラが、初めて、まっすぐにルカを見た。
「ふた月前、南……時期も場所も、あいつの進路と重なる。——あんたの村をやったのも、十中八九、ベルガの軍よ」
父を、リーナを、村のみんなを。その、下手人の名前。ルカは、膝の上でこぶしを固く握りしめた。
「ベルガの軍は今、北西へ動いてる。方角からして、狙いはたぶん、聖都サンクレア」ミラは立ち上がり、外套を翻した。「私は追う。あんたたちも聖都に行くんでしょ。——同じ方向ってだけよ。あんたたちと組む気は、ない」
そう言って、ミラは先に歩き出した。その小さな背中に、ルカは、ありし日の幼馴染の面影を、重ねずにはいられなかった。胸の奥が、鈍く痛んだ。




