第32話 炎の魔女
街道の先、小さな集落のあたりから、黒い煙が上がっているのが見えた。
「魔物か……! 行くぞ、ルカ!」
二人は駆け出した。集落に飛び込むと、そこは戦場だった。十数体の魔物が、家々を襲い、逃げ惑う村人たちに牙を剥いている。
——だが、様子がおかしかった。
魔物たちが、次々と、炎に呑まれていくのだ。
集落の中央に、一人の少女が立っていた。深紅の外套を翻し、両手に炎を宿して。少女が手を振るうたび、火柱が奔り、魔物が絶叫とともに燃え上がる。それは、魔法というより、燃え盛る怒りそのもののようだった。少女は、傷を負うことも恐れず、群れのただ中へ、自ら踏み込んでいく。
「あれが……炎の魔女」
見とれている場合ではなかった。ドランは剣を抜き、少女が討ち漏らした魔物へと斬りかかる。ルカも、逃げ遅れた子どもを抱え、物陰へと走った。魔物が追いすがるが、ルカが子どもをかばって剣を構えた瞬間、刃がまた、淡い光を帯びる。その光に怯んだ魔物を、ドランの剣が仕留めた。
やがて、最後の一体が炎に沈み、戦いは終わった。
焼け焦げた地面の上で、少女が、ゆっくりとこちらを振り返った。
その顔を見た瞬間——ルカの世界から、音が消えた。
亜麻色の髪。大きな瞳。少しつり上がった、勝気そうな眉。
「……リーナ……?」
声が、勝手にこぼれていた。あの日、瓦礫の中で冷たくなっていた、幼馴染。ネックレスを握りしめて逝った、あの子が——目の前に、立っている。
少女は、ルカを一瞥した。その瞳は、リーナのものよりずっと鋭く、氷のように冷たかった。
「……誰よ、それ」




