第31話 トルムの噂
旅を続けて十日あまり。ルカとドランは、街道沿いの宿場町、トルムにたどり着いた。
町は、以前のヴェルンと同じように、いや、それ以上に、疲れた人々であふれていた。西から、南から、家を追われた人々が流れ込み、通りには嘆きと不安が澱のように溜まっている。
二人は情報を集めるため、町一番の酒場に入った。ドランが酒を頼み、それとなく耳を澄ませる。飛び交う話は、暗いものばかりだった。
「聞いたか。西のガルド王国、都が落ちたとよ」
「あそこは戦続きで兵が減ってたからな……次はどこがやられるんだか」
「魔物どもを率いてるやつらがいるらしい。魔王の側近だとか。——四天王、って呼ばれてるそうだ」
四天王。その言葉に、ルカとドランは、目を見合わせた。
「南の方をやったのは、斧を持った、山みてえな大男だって話だ。ベルガとかいう……村や町を焼いて回って、笑ってるんだとよ。悪魔だ」
南。ルカの胸が、どくりと跳ねた。南は——自分の村のある、方角だった。
ドランが、さりげなく話に割って入り、サンクレアへの道を尋ねた。年老いた行商人が、教えてくれた。
「聖都なら、まだ無事だよ。神殿の結界と、聖騎士団があるからね。ここから南東へ、グラム平原を抜けていくのが早道だ。——ああ、そうだ、平原を行くなら気をつけな」
「魔物か」
「それもあるが……最近、妙な噂があってね。『炎の魔女』ってのが出るんだと」
「炎の、魔女?」
「若い娘らしいんだがね。たった一人で魔物の群れに突っ込んでいって、火の魔法で、群れごと焼き尽くしちまうんだと。命知らずってレベルじゃない。目つきが尋常じゃなかった、って言うやつもいる。関わらんほうがいい」
ルカは、その話が、なぜか胸に引っかかった。たった一人で、魔物の群れに。いったい、どんな人なのだろう。
翌朝、二人はトルムを発ち、グラム平原へと続く街道を、南東へ向かった。




