第3話 剣を握れない少年
魔王の脅威はとうに遠い伝説となり、勇者の村にも穏やかな日々が流れていた。畑を耕す人々、駆け回る子どもたち、ゆっくりと巡る季節。誰もが、平和とはこういうものだと信じて疑わなかった。
その村の片隅に、ルカという少年が暮らしていた。勇者の血を引く、その末裔である。
——とはいえ、その姿は人々が思い描く「勇者の子孫」とはほど遠かった。
「ルカ、腰が引けているぞ。もう一度だ」
村はずれの広場で、父の声が飛ぶ。ルカは木剣を両手で握りしめ、必死に父へと打ち込んでいく。けれど振り下ろした剣はあっさりと払われ、ルカはそのまま尻もちをついてしまった。何度立ち上がっても、結果は同じだった。
剣は重く、腕はすぐに痺れ、息はあがる。父の動きにはまるでついていけない。やがて悔しさと情けなさがこみあげてきて、ルカの目にはじわりと涙が滲んだ。
「……もう、いやだよ」
ぽろぽろと涙をこぼしながら、ルカは木剣を地面に落とす。父は小さくため息をついた。それでも、決して声を荒げることはしなかった。
ルカは知っていた。自分が勇者の血を引いていることを。父がそれを誇りに思い、いつか立派な剣士になってほしいと願っていることも。
それでも——どれだけ稽古を重ねても、ルカはちっとも強くなれなかった。剣を握るたびに、ただ自分の弱さを思い知らされるばかり。気の弱い泣き虫の少年。それが、勇者の末裔である自分の正体だった。




