第2話 地下に眠る者
時を、勇者が魔王を討つ少し前まで戻そう。
魔王城の最奥、誰も知らぬ地下深くで、魔王は静かに魔方陣を描いていた。床一面に刻まれた紋様は、彼の持てる魔力のすべてを注ぎ込んだものだった。
魔王にはわかっていた。地上に現れたあの青年——神の力を宿した勇者を、自分はおそらく倒せない。長い年月を生きてきたからこそ、彼は己の敗北を冷ややかに見据えていた。
魔方陣の中央には、一人の幼い子が眠るように横たえられていた。魔王の息子である。
「いずれ私は、あの勇者に討たれるだろう」
魔王は眠る我が子に語りかけた。その声に嘆きはなく、ただ揺るぎない意志だけがあった。
「だが、それで終わりではない。お前が私に代わって人間どもを滅ぼし、この大陸のすべてを手にするのだ」
魔王は最後の魔法を編んだ。魔方陣の中で、息子の力が少しずつ増幅し続けるように。そしてその力がやがて限界を超えたとき、封印がひとりでに解け放たれるように。先代である父をも越える力を備えて、息子が目覚めるように。
すべての術を刻み終えると、魔王は地上へと歩き出した。勇者と相まみえ、討たれるために。
地の底では、幼い子が静かに眠り続けていた。誰にも知られぬまま、その身の内に少しずつ、少しずつ力を蓄えながら——気の遠くなるような、千年の時を。




