第1話 千年の昔
千年の昔、この世界には二つの大陸があった。人間の暮らす大陸と、魔物の住まう大陸である。
長いあいだ、両者は海を隔てて互いに干渉せず生きていた。だが魔物たちを束ねる魔王が現れたとき、その均衡は崩れ去った。魔王は強大な力で魔物を率い、人間の大陸へと攻め込んだ。剣も魔法も魔王の前ではまるで歯が立たず、人間たちの国は一つ、また一つと呑み込まれていった。大陸の半ばが魔物の支配下に落ちたとき、人々はもう祈ることしかできなかった。
その祈りに応えたのは、世界を見守る神だった。神は、この世界が魔王のものとなることを望まなかった。けれど自ら地上に降りて戦うことはせず、代わりに一人の青年を選んだ。名もなき村に生きる、ごく普通の若者だった。
神が授けた力は、あまりに強大だった。並の人間の体では到底耐えきれぬほどの、灼けつくような力。多くの者ならその力に焼かれて命を落としていただろう。だが青年だけは、その力に耐えた。
青年は剣を取り、魔物の群れを退け、ついに魔王のもとへとたどり着いた。激しい戦いの末、青年は魔王を討ち果たす。世界は救われた。人々は彼を「勇者」と呼んだ。
戦いが終わると、勇者は栄誉も王座も求めず、静かに故郷の村へと帰っていった。彼が余生を過ごしたその村は、いつしか勇者の村と呼ばれるようになる。
——これが、千年のあいだ語り継がれてきた物語の始まりである。




