第29話 光の剣
ドランが剣を抜いた。ルカも、震える手で父の剣を構える。怖い。それは、変わらない。けれど——足は、もう竦まなかった。
魔物たちが、一斉に跳んだ。ドランの剣が閃き、二体が宙で両断される。だが、一体が、その脇をすり抜けた。牙を剥き、まっすぐにルカへと迫る。
避けられない。ルカは、剣を握る手に、力を込めた。逃げない。もう、逃げない。守られてばかりじゃ、いられない——
その、瞬間だった。
胸の奥が、かっと熱くなった。祠で受け取った、あの熱。それが血に乗って腕を駆け、剣へと流れ込む。刃が、淡い金色の光をまとった。
「——ああああっ!」
ルカは、無我夢中で剣を振り抜いた。型もなにもない、めちゃくちゃな一振り。けれど、光をまとった刃は、跳びかかってきた魔物を、一刀のもとに斬り伏せていた。
残る二体が、怯んだように後ずさり、森へと逃げ去っていく。
静寂が戻ると同時に、剣の光が、ふっと消えた。途端に、全身から力が抜け、ルカはその場に膝をついた。息が上がり、腕が鉛のように重い。まるで、体の中身を、ごっそり持っていかれたようだった。
「……今のが、神の力か」
ドランが、驚きを隠さずに歩み寄ってきた。ルカは、肩で息をしながら、自分の剣を見つめた。
「勝手に……出たんです。出そうと思って、出したんじゃなくて。ただ、逃げないって、思ったら」
「なるほどな」ドランは、顎ひげを撫でた。「力はある。だが、まだお前のものになっちゃいない。呼べば来る飼い犬じゃなく、気まぐれな野良猫ってところだ。おまけに、一振りでその有様じゃ、実戦じゃ使いものにならん」
厳しい言葉だった。けれど、ドランの口元は、わずかに緩んでいた。
「だがな、ルカ。今の一振り、悪くなかったぞ。腰が入ってた」
ルカは、荒い息の中で、小さく笑った。剣が、初めて、自分の味方をしてくれた気がした。神の言葉が、よみがえる。この力は、種だ。育てるのは、これからの自分なのだ。




