第28話 変わった瞳
谷の入り口で、ドランは焚き火を熾して待っていた。近づいてくる足音に顔を上げ、そして、わずかに目を見張った。
「……戻ったか」
歩いてくるのは、確かにルカだった。けれど、どこかが違う。祠に入る前の、あの怯えたような気配が、消えている。歩き方も、剣の背負い方も、何ひとつ変わってはいないのに——瞳の奥に灯る光だけが、別人のようだった。
「ただいま、ドランさん」
ルカは焚き火のそばに腰を下ろすと、祠の中で起きたことを、ぽつり、ぽつりと語りはじめた。神の声のこと。心の試練のこと。繰り返される絶望のこと。そして、その果てに、力を受け継いだこと。
ドランは、口を挟まずに聞いていた。語り終えたルカが、最後にこう付け加えた。
「でも、この力じゃ、まだ魔王には勝てないんだそうです。力を育てて、仲間を集めろって。……祖先が千年前に歩いた道を、僕も、歩かないといけない」
「その道とやらは、どこにある」
「わかりません。だから、調べないと」
ドランは、しばらく火を見つめていた。やがて、思い当たったように顔を上げた。
「……聖都サンクレアだ。ここから南東に、大きな神殿都市がある。勇者を神の使いとして祀ってきた、千年続く聖堂だ。勇者の伝承なら、大陸中のどこよりも、あそこに残っているはずだ」
「サンクレア……」
「遠いぞ。歩けば、ひと月はかかる。道中は、魔物だらけだ」ドランは、にやりと笑った。「まあ、祠までと言った約束は果たしたが——ここで放り出すのも、寝覚めが悪い。付き合ってやるよ、勇者様」
ルカは、思わず笑った。祠を出てから、初めての笑顔だった。
その夜、ルカは焚き火のそばで、星空を見上げた。父さん、リーナ。僕は、行くよ。もう、泣いてるだけじゃない。見ていてほしい。夜空に瞬く星は、あの日、村で見上げたものと、同じ光をしていた。




