第27話 まだ足りぬ力
これほどの試練を、くぐり抜けて。あれほどの苦しみに、耐えて。ようやく、力を、手にしたのに。それでも、まだ、足りないのか。
『落胆するな』けれど、神の声は、ルカの心を、見透かしたように、続けた。『私が授けた力は、いわば、種だ。これから、お前が、その力を、育てていくのだ』
「育てる……?」
『この力は、お前の心が成長し、お前が経験を積むほどに、強くなっていく。剣の技を磨き、幾多の戦いをくぐり抜け、そして——共に戦う、仲間を得るのだ』
仲間。その言葉に、ルカは、祠の外で待つ、ドランの顔を、思い浮かべた。
『お前一人の力で、為せることには、限りがある。だが、志を同じくする者たちが、力を合わせたとき——その力は、お前が一人で抱える力を、はるかに超える』神の声は、諭すように、告げた。『各地を巡り、仲間を集めよ。この大陸には、魔王の脅威に、立ち向かおうとする者が、まだ、必ずいる。彼らと、絆を結べ。そうして初めて、お前は、魔王に届く力を、得るだろう』
ルカは、深く、うなずいた。
道のりは、まだ、果てしなく遠い。手にした力は、ゴールではなく、始まりにすぎなかった。それでも、進むべき道は、はっきりと、見えていた。
『行け、勇者ルカ』神の声が、最後に、響いた。その声は、もう、慈しみに、満ちていた。『お前の祖先が、そうしたように。いや、あの者を越えて。この世界に、ふたたび、光を取り戻すのだ。お前なら、できる。私は、そう信じている』
中央の光が、ゆっくりと、消えていく。あたりが、闇に、包まれていく。けれど、ルカの心は、もう、闇を恐れてはいなかった。
「……はい」
ルカは、力強く、答えた。
そして、背の剣を握りしめ、来た道を——光の差す、出口へと、歩き出した。
祠の外では、ドランが、待っている。きっと、心配しているだろう。早く、伝えなければ。自分が、試練を越えたことを。そして、これから、長い旅が、始まることを。
闇の向こうに、ぽつりと、出口の光が、見えてきた。
ルカは、その光に向かって、一歩、また一歩と、進んでいった。その足取りは、祠に入る前とは、まるで違っていた。もう、迷いはなかった。もう、一人ではなかった。
泣き虫だった少年は、今、確かに、勇者として、新たな一歩を、踏み出そうとしていた。
ここから始まる、仲間を集める旅が、どれほど過酷なものになるかを——このときのルカは、まだ、知らない。けれど、何が待ち受けていようとも、もう、立ち向かっていける。そんな確信が、ルカの胸には、静かに、燃えていた。




