第26話 継ぐ者
光が、晴れていく。
気がつくと、ルカは、最初の、あの円形の空間に立っていた。古い文様の刻まれた、石の床。中央を照らす、淡い光。試練の前と、何ひとつ変わらない、神の祠の、奥底だった。
けれど、ルカ自身は、もう、同じではなかった。
『見事だ、ルカ』
声が、響いた。その響きには、これまでにない、深い、慈しみが、こもっていた。
『お前は、絶望の底で、自らの心を、砕かなかった。いや——一度は、砕けかけた。それでも、お前は、立ち上がった。自らの弱さを、認めながら。なお、前を向くことを、選んだ』
ルカは、静かに、その声を、聞いていた。
『力を、なかったことにするのではない。弱さを、否定するのでもない。弱さを抱えたまま、それでも進む。それこそが、私が、勇者に求める、真の強さだ』声は、告げた。『お前は、それを、自らの力で、つかみ取った』
中央の光が、しだいに、強さを増していく。
『ルカ。お前は今、この力を受け継ぐに、ふさわしい魂となった。千年の昔、お前の祖先がそうしたように——いや、あの者すら、ここまで深く、絶望と向き合いはしなかった』
光が、ひとつの形を、結びはじめる。
『受け取るがいい。世界の命運を、託すに足る、その力を』
ルカは、ゆっくりと、光の中へと、足を踏み入れた。そして、その光に、手を伸ばす。
指先が、光に触れた、その瞬間。
熱が、ルカの体に、流れ込んできた。
それは、灼けつくような、凄まじい力だった。全身の血が、沸き立つような。骨の髄まで、震えるような。並の人間なら、その力に、焼き尽くされていただろう、強大な力。
「う……あ、ああ……!」
ルカは、歯を食いしばった。体が、引き裂かれそうだった。けれど——ルカは、耐えた。あの、絶望の地獄を、くぐり抜けた心は、もう、この程度の苦しみに、屈しはしなかった。砕けかけ、それでも砕けなかった魂が、その力を、しっかりと、受け止めていく。
やがて、嵐のような熱が、収まっていった。
ルカは、ゆっくりと、目を開けた。そして、自分の手を、見つめた。
何かが、違った。体の奥に、これまでなかった、温かな力が、確かに、宿っている。それは、ルカの心と、ひとつに、溶け合っていた。
『その力は、お前の魂と、ひとつになった』神の声が、告げた。『お前は今日より、真の勇者だ。ルカよ』
ルカは、自分の手のひらを、じっと見つめ、そして、固く握りしめた。
勇者。かつては、自分には、決して縁のない言葉だと思っていた。けれど、今は——その名を、受け止めることが、できた。




