第23話 罵る声
幾度、繰り返しただろう。もはや、ルカには数えることもできなかった。
ルカの心は、すり減っていった。幸せな朝も、もう、喜びをもたらさなかった。それは、これから始まる地獄の、合図でしかなかったから。父の笑顔も、リーナの声も、見るたびに、聞くたびに、ルカの胸を、ただ抉るばかりだった。
そして、試練は、さらに残酷な姿を、現しはじめた。
その日、村が燃え、リーナが斬られ、ルカがその亡骸にすがりついていたとき。
「……どうして、助けてくれなかったの」
冷たい声が、聞こえた。ルカは、はっと顔を上げた。
死んだはずのリーナが、目を開けて、ルカを見ていた。けれど、その目に、いつものあたたかさは、なかった。
「ルカが、弱いから」リーナの唇が、紡いだ。「ルカが、弱虫で、泣き虫で、何もできないから。だから、わたしは、死んだの」
「ち、違う……僕は」
「ねえ、どうしてルカだけ、生き残ったの?」リーナの声が、責めるように、重なっていく。「ルカなんかより、もっと生きるべき人が、たくさんいたのに。どうして、一番弱いルカだけが、のうのうと生きてるの?」
ルカの胸に、その言葉が、突き刺さった。
それは、ルカが、心の奥底で、ずっと自分を責め続けてきた言葉だった。なぜ、自分だけが助かったのか。なぜ、もっと強くなれなかったのか。その、決して口にできなかった罪悪感を、リーナの姿をした幻が、容赦なく、えぐり出していく。
「ルカのせいだ」
倒れていたはずの父も、立ち上がり、ルカを見下ろした。その目は、軽蔑に満ちていた。
「お前が、勇者の血を継ぎながら、これほど無力でなければ。村は、滅ばずに済んだ。リーナも、死なずに済んだ。みんな、お前のせいで、死んだんだ」
「やめて……やめてください、父さん」
「お前など、生まれてこなければよかった」
その一言が、ルカの心を、深く、深く、抉った。
幻だと、わかっている。本当の父が、リーナが、こんなことを言うはずがない。二人は、最期まで、自分を愛してくれた。それは、わかっている。
それでも——その言葉は、ルカが、自分自身に向け続けてきた呪いと、寸分たがわなかった。だからこそ、毒のように、心の奥まで染み込んでいく。幻の言葉なのに。まやかしの声なのに。その痛みだけが、どうしようもなく、本物だった。
「ごめんなさい……ごめんなさい……」
ルカは、ただ、うずくまって、謝り続けた。誰にともなく。繰り返される地獄の中で、ルカの心は、少しずつ、確実に、砕けはじめていた。




