第22話 繰り返す絶望
木の梁。漆喰の壁。差し込む、朝の光。
ルカは、跳ね起きた。寝床。テーブル。父の剣。何ひとつ、焼けていない。
「……え?」
戸の向こうから、父の声がした。「ルカ! いつまで寝てるんだ。朝餉ができたぞ」
ルカは、戦慄した。
同じだ。さっきと、同じ朝。同じ言葉。すべてが、巻き戻っている。
おそるおそる戸を開けると、そこには、生きた父がいた。家を飛び出せば、笑顔のリーナがいた。たった今、目の前で死んだはずの、二人が。
ルカは、震えた。理解したのだ。これが、試練の正体。心の、試練。
——時が、戻る。
幸せな朝から始まり、村が襲われ、父とリーナを失い、絶望する。そして、また、幸せな朝に戻る。この地獄が、繰り返されるのだ。
「いやだ」ルカは、頭を抱えた。「もう、いやだ……!」
二度目の昼下がり。ルカは、必死だった。今度こそ、二人を救う。あの惨劇を、繰り返させはしない。空が翳りはじめるより早く、ルカは父とリーナの手を引き、村の外へ逃げようとした。
けれど——どれだけ走っても、村の境界に、たどり着けなかった。道は、ぐにゃりと歪み、気がつけば、また村の中心に戻されている。まるで、見えない手が、この惨劇から、誰一人逃さないとでもいうように。
そして、空が翳る。鐘が鳴る。魔物が、降ってくる。
ルカは、剣を取った。震える手で、父の形見を構え、魔物に立ち向かおうとした。けれど、剣はあっけなく弾かれ、ルカは地に這いつくばる。そして、その目の前で、また、リーナが斬られる。父が、倒れる。
「どうして……どうして!」
何度、繰り返しても、結果は変わらなかった。
逃げても、戦っても、隠れても。どんな手を尽くしても、二人は、必ず死ぬ。ルカの、ちっぽけな力では、どうあがいても、この運命を、覆すことはできなかった。
そして、絶望の果てに意識が途切れるたび、世界は、無慈悲に、あの幸せな朝へと巻き戻る。
何度も。何度も。何度も。
ルカは、繰り返し、繰り返し、最愛の人々を、目の前で失い続けた。




