第15話 酒場の男
下卑た笑い声。酒に酔った、柄の悪い男たちだった。その中の一人が、ルカの背の剣に目を留めた。
「こいつ、いい剣を背負ってるじゃねえか。どうせ死にかけだ。もらっていっても、文句は言うまい」
男の手が、剣の柄に伸びる。ルカはとっさにそれを抱え込み、首を横に振った。これだけは——父の形見だけは、渡せない。けれど、衰弱しきった体に、男たちを振り払う力など、残っていなかった。
「やめときな」
低い声が、割って入った。
酒場の戸口に、一人の男が寄りかかって立っていた。年のころは四十がらみ。無精ひげを生やし、くたびれた外套をまとっている。けれど、その身にまとう空気は、ただの酔っぱらいとは明らかに違っていた。腰には使い込まれた剣を下げ、その立ち姿には、隙というものがなかった。
「子ども相手に剣を奪って、それで腹がふくれるのか。みっともない真似はよせ」
男がゆっくりとこちらへ歩み寄ると、柄の悪い男たちは、その眼光にたじろいだ。一人がなお食い下がろうとしたが、男が腰の剣に手をかけるそぶりを見せただけで、彼らは舌打ちをして、そそくさと去っていった。
男は、座り込んだままのルカを見下ろした。その目は鋭いが、不思議と冷たくはなかった。
「ひどい顔だな。いつから食ってない」
ルカが答えられずにいると、男は小さくため息をつき、ぶっきらぼうに言った。
「来い。奢ってやる。倒れられても寝覚めが悪いからな」
酒場の片隅の席で、ルカは出された温かいスープとパンを、夢中でかきこんだ。何日ぶりかの食事が、冷えきった体に染みわたっていく。その様子を、男は黙って酒をあおりながら眺めていた。
腹が落ち着いたころ、男はぽつりと尋ねた。
「その剣、子どもが持つにしちゃ、ずいぶん上等だ。どこで手に入れた」
「……そうか」
やがて男は、低くつぶやいた。
「俺はドランだ。昔は、これでも国の兵士でな。剣を振るって、国を守っていたつもりだった」男は、自嘲するように口の端を歪めた。「だが、守るべき国は、隣の国と殺し合いだ。何のために剣を握ってきたのか、今じゃ自分でもわからん。こうして、酒に逃げる毎日さ」
ルカは、その言葉の重さを、まだ完全には理解できなかった。けれど、この男もまた、何か大切なものを失ったのだということだけは、感じ取れた。
「僕は、ルカです」
ルカが名乗ると、ドランはわずかに目を細め、「ルカ、か」と、その名を確かめるように繰り返した。




