第10話 北へ
どれほど泣いただろう。涙はもう、枯れていた。それでもルカは、ぼんやりと座り込んだまま、動くことができなかった。父も、リーナも、村のみんなも、もういない。たった一人、自分だけが生き残ってしまった。
——どうして。
その問いが、胸の奥で渦を巻いた。そして、いつしかその渦は、別の感情へと姿を変えていった。
熱い。胸の奥が、焼けるように熱い。
それは、生まれて初めて感じる怒りだった。泣き虫で、気が弱くて、いつも誰かに慰められてばかりだったルカが、生まれて初めて抱いた、激しい怒り。あの魔王が、すべてを奪った。父を、リーナを、この村のすべてを。許せない。決して、許せない。
けれど、と、ルカはこぶしを握りしめた。ここで泣き崩れているだけでは、何も変わらない。父も、リーナも、戻ってはこない。父は言った。お前はみんなの希望なのだと。生きろと。あの言葉を、無駄にするわけにはいかない。
ルカは、ふらつく足で立ち上がった。
まず、父とリーナの亡骸を、村を見渡せる丘の上へと運んだ。固い地面を、手が傷つくのもかまわず掘り起こし、二人を静かに横たえる。そして、焼け残った野に咲いていた花を摘み、その上にそっと添えた。土の前に膝をつき、ルカは両手を合わせた。
「父さん、リーナ……ありがとう。そして、ごめんね。僕、行くよ」
立ち上がったルカは、父が遺した剣を拾い上げた。ずっと握ることのできなかった、重い剣。けれどいま、その重さは、父の想いそのものに思えた。ルカは剣を背に負い、ゆっくりと北を向いた。
谷の奥に眠る、古い祠。神が待つという、その場所へ。
最後にもう一度だけ、ルカは故郷の村を振り返った。そして、二度と振り返らぬと心に決め、北へと歩き出した。剣を握ることもできなかった泣き虫の少年が、いま、自らの足で、運命へと歩き始めたのだった。




