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異世界で小学生やってる魔女  作者: ちょもら
[第3.5話 魔女達と日常の話]
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お楽しみ会 ②

「えっと……じゃあ全員集まったみたいだし、とりあえず自己紹介からしとく?」


 登場人物も出揃った事で、私は少々警戒しながらも彼女達に自己紹介を促した。たかが小学生相手に警戒し過ぎだとは思うけれど、しかしこのマリちゃんはタロウくんが太鼓判を捺す程のコミュ強らしいし、用心するに越した事はない。


「はーい!」


 私の提案に元気な声で応じるマリちゃん。こうして本指名のマリちゃん+ヘルプの三人を含めた四人の自己紹介が、私の右隣に座るマリちゃんから順番に始まった。


「マリです」「エリです」「ユリです」「リリです」


 ……ん?


「ごめん、もう一回言って貰えるかな?」


「ユリです」「リリです」「マリです」「エリです」


「何で順番変えたの!?」


 私がツッコミを入れると、マリちゃんは楽しそうにケラケラ笑い声をあげながら私にボディタッチをして来た。


「アッハ! ねぇ、プロデューサーさんのツッコミ超面白いんだけどー! ウケるー!」


「……」


 なるほど、確かにこのクラス一番のコミュ強女子だとタロウくんが太鼓判を捺すだけの事はある。マリちゃん、中々の小慣れっぷりだ。ていうか何やってるの私! 思わずつっこんじゃったけどダメだよこんなの! 場を白けさせないといけないんだ私は!


「あ、もしかしてからかわれて怒っちゃった? ごめんねプロデューサーさん、冗談はここまでにするから許してー?」


「なんなら私の視界に映るこの光景全てが冗談であって欲しいよ」


 私は小学校という学びの地に築かれたキャバクラという光景に、ただただため頭を抱えるばかりだった。


「それじゃあ改めて。初めまして、藍川マリって言います。良かったら名刺どうぞ」


「名刺……」


 私はマリちゃんから名刺を受け取り、このキャバ嬢上級者ぶった仔羊ちゃんの心をどのようにへし折ろうか、思考の世界へと身を投じた。


「プロデューサーさん、飲み物は何にする? と言ってもうちはほら、従業員皆んな未成年だしハウスボトルはコーラとサイダーとカルピスしかないんだけどね」


「キャバクラ用語使わないでくれないかな。ドリンクメニューとかでいいじゃん。えーと……、それじゃあカルピスで」


「はーい! 水割りとロックどっちがいい?」


「カルピスのロックはエグいって」


 私の注文を受け、黒服姿のタロウくんが飲み物一式をテーブルまで運んで来る。氷がたんまり入ったアイスペール、氷を移す為のアイストング、グラスをかき混ぜる為のマドラー、そして人数分のグラスとカルピスの原液及び天然水。うん。アルコールが存在しないだけで、その他全てに既視感がある。プライベートで職場の道具を見るのって何でこんなイライラするんだろう。


「プロデューサーさん、うちらのクラスの為に色々協力してくれて本当にありがとうねー?」


 場が白けないよう、早速雑談を交えながらマリちゃんの手が動き出した。まずはアイストングを使い、グラスがいっぱいになるまで氷を投入していく。大きな氷、大きな氷、それらの隙間を埋めるように小さな氷と、適当に氷を入れるのではなく、氷の大きさを見極めながらテトリスの要領でグラスの内側を氷で満たしている。


「うちのメイクもプロデューサーさんのアドバイスを参考にアーモンドアイを作ってみたんだー。めっちゃ大人っぽいでしょ?」


 グラスがいっぱいになるまで氷を入れ終えると、次にマリちゃんはカルピスの原液を……注がない。そう、注がなかった。マドラーを使い、氷だけが入ったグラスの内部をかき混ぜたのだ。グラスに氷を入れたら、飲み物を注ぐ前にまずは内部の氷をかき混ぜてグラス全体を冷やさなければならない。新人キャバ嬢がよく間違えるミスを、マリちゃんは軽々とスルーしてみせた。おのれ、このままドリンクを注いだらグラスがぬるいってクレームを入れる事も出来たのに小癪な……っ。


 ある程度氷を混ぜると、小さな氷から先に溶けていってグラスに隙間が生じる。マリちゃんはその隙間も見逃さず、すぐに二の手三の手と氷を継ぎ足していった。


 このメスやりおる。特に末恐ろしいと感じてしまったのが、氷をかき混ぜる方向だ。マリちゃん、意図的にやっているのか無意識にやっているのかわからないけれど、氷をかき混ぜる方向が反時計回りだったのだ。キャバクラにおいて、時計回りというのは『さっさと時間を進めてバイバイしたい』という縁起の悪さから、お酒を混ぜる時は反時計回りにする事が推奨されている。もしも齢12歳という幼さでそれを意識してやっているのだとしたらこの女……、あまりに出来る。なんなら後輩として私のヘルプについて欲しいくらいだった。


「プロデューサーさん、濃いめがいいとか薄めがいいとかある?」


「普通で」


「はいはーい」


 私の注文を受け、キンキンに冷えたグラスの中にいよいよ主役であるカルピスの原液が注がれていった。お酒を注ぐ高さは通常指二本分だけど……あれ? そんなちょっぴりしか注がないの? ……いや、そっかそっか。これはお酒じゃなくてカルピスの原液だった。指二本分も注がれたら糖尿まっしぐらである。


 その後、水を適量注いでから再びマドラーで混ぜるマリちゃん。


「はい、それじゃあ失礼しまーす」


 そうやって完成したカルピスを、マリちゃんは私に差し出す……その前に。うん。グラスの水滴をしっかり拭き取ってから渡してくれた。


「……」


 完璧だ。完璧過ぎる。もしも可愛がってる後輩が一発でこれらの技術を披露しようものなら、私は感極まってその子を抱きしめいい子いい子してしまうだろう。


「あの……、プロデューサーさん。よかったらうちも一緒に乾杯していいかな?」


「え? あー、うん。もちろん」


 私がグラスを受け取るのを確認した所で、ドリンクのおねだりをして来たマリちゃん。マリちゃんは私の許可を貰った所で「わー! ありがとう!」とお礼を言い、私の注文と同じように自分用のカルピスを作る。……いや、私に作ってくれたカルピスよりも大分薄味のカルピスを作っていた。


 お客さんにドリンクをねだる際は、お客さんより高い物を選んではいけない。もしも濃いめのカルピスを作ろうものなら、そのミスをチクチクといやらしく突く事も出来たのに。本当に抜かりない子である。


「えへへー、プロデューサーさんとお揃いの作っちゃった」


 その上言動の一つ一つがあざといと来たものだ。これは私の予想を遥かに上回る強敵かも知れない。


「嬉しいなー。うちね、お客さんにドリンクご馳走して貰ったのってこれが初めてなんだ」


「だろうね」


 だから。


「あ、ヘルプの子達も好きに飲んでいいから」


 私は標的をマリちゃんだけに絞らず、ヘルプの子達にも罠を仕掛けてみる事にした。すると早速。


「じゃあ私も……」


 あの子は確かエリちゃん……だったっけ。私の無愛想トークに心を折られたあの子が私の罠にかかった。エリちゃんは自分のグラスを手に持ち、コーラを注ごうとするのだけれど。


「エリちゃん」


 その瞬間、マリちゃんに呼び止められた。マリちゃんは笑顔の中に底知れない感情を秘めた声色を放ちながらエリちゃんの事を見つめる。すると。


「……あ。そ、そうだった。あの、私は大丈夫です」


 エリちゃんは手に取ったグラスをテーブルに置き、私からのドリンクを断ったのだった。


 ヘルプの娘は、お客さんにドリンクを勧められても一度は断らなければいけない。一度断った上でもう一度お客さんに勧められた場合に限り、ドリンクを飲んでも良いものとする。キャバ嬢の中での暗黙のルールだ。あと少しでエリちゃんをこの罠に嵌められそうだったのに……。


「……いいよ。皆んな飲んで」


 仕方なしに私がもう一度彼女達にドリンクを勧めると、ヘルプの子達は安心したような顔付きでそれぞれ自分のドリンクを入れていった。


 ……っち。初めての接客で全員ドリンクを貰えたからだろう。この出来事が一つの成功体験として彼女達の経験に刻み込まれたのか、最初から凛とした態度のマリちゃんはともかく、最初はオドオドしていた三人のヘルプ達も安心し切った表情になっており、張り詰めた空気がいつのまにか緩んでしまっている。このままだとキャバ嬢は楽しい仕事なのだと、未来ある子達に変な勘違いをされてしまう事に。


 まずい。もしも今日の事がきっかけになって、キャバクラ喫茶に収まらず、彼女達の中から実際キャバ嬢になりたいと思う人が現れてしまったら……。そうなる前に私はこの店を潰さなければならないのに……。おのれマリちゃん、余計な真似を……っ。


 私は思わずマリちゃんを睨みつける。しかしマリちゃんは私の凝視に気がつくと、とても裏があるようには思えない屈託のない笑顔で微笑み返し、私に体を寄せ付けて来た。


「えへへー、皆んなの分も入れてくれてありがとね? プロデューサーさん」


「……」


「プロデューサーさんだーい好きっ」


「うっ……」


 クソっ……、可愛いな。営業スマイルなのはわかっているけど、それでも年下の女の子に甘えられるのがこんなにも嬉しいだなんて……。そりゃキャバクラ文化も昭和の時代から衰退しない筈だ。


 困ったな。なんか、緊張で変な汗かいてきた。それに体の内側も痒くなって来た気がする。私は少しばかりの涼を求め、それと同時に体の内側も掻こうと思い立ち、上着を脱ぐべく僅かに体をモゾモゾさせた。すると。


「ハッ!?」


「……」


 マリちゃんはいつの間にかその小さな手にライターを握り締めながら、ジーッと私の様子を窺っていたのである。


 長い事キャバ嬢をしていると、喫煙客がタバコを吸おうとしているタイミングがなんとなくわかるものである。体をモゾモゾさせたり、視線が私から逸れて何かを探し始めたり。そのサインを見抜いて颯爽とライターの準備をしてこそプロのキャバ嬢。それをこんな……、キャバ嬢どころかバイト経験さえ皆無で、あまつさえ義務教育すらも終えていない子どもがこの境地に到達しているだなんて……っ。


「あ、もしかしてうち勘違いしちゃった? プロデューサーさん、てっきりタバコを吸うと思って」


「吸わないし仮に喫煙者だったとしても子どもの前で吸ったりしないから」


「えー! プロデューサーさん優しいー!」


「ねぇ、だからそうやって気安くくっつかないでってば!?」


 私が何かをする度に、事あるごとにボディタッチをしてくるマリちゃん。立場上、私は彼女の体を無理矢理引き離すのだけれど、しかし胸の奥底ではこのままずっと甘えて貰いたいと願ってしまう私も確かにいるわけで。焦ったいのやらもどかしいのやら、赤色と桃色に染まった感情が私の中身をぐちゃぐちゃに掻き回す。甘えるという行為を中々見せてくれない女の子を5年半も育てた身だからこそ、尚更そう感じる。私はりいちゃんとは真逆の彼女を見ながら小さなため息を吐いた。


「でもよかったよ。プロデューサーさんが喫煙者じゃなくて」


「ど、どうして?」


「うち、親がどっちもヘビースモーカーなせいでタバコの臭いが苦手なの。ダメだよね? こんな仕事をしているのに」


「へ、へー。そうなんだ」


「うん。だから子どもの前でタバコを吸わないって言ってくれて、本当にかっこよかったよ?」


「あ、そう……」


「……でもね」


「ん?」


「でも、本当はそれだけじゃなくてね」


「……」


 あれ、何だろう。どうしてマリちゃん、そんなに顔を赤らめているんだろう。酔ってるのかな。いやまさか。アルコールも入ってないのにそんなバカな……。


「確かにうち、タバコは嫌いだよ? でもそう思う反面、タバコの似合う大人の人って凄くカッコいいなーとも思うの」


 ちょっと。ちょっとやめてよそれ。何でそんな顔するの? お目目なんかトロンとさせちゃってさ。そんな目で私の事を見ないでくれないかな。だって、だってさ。こんなに顔赤らめて、もじもじと恥ずかしそうに私の目を見て来たかと思えば今度は視線を逸らしたり……って、うわ!? この子いきなり私の手に自分の手重ねて来たんだけど!? ちっちゃ! お手手ちっちゃっ! その上あったかっ! え、え、何これ可愛わっ! 


「だからプロデューサーさんのタバコ姿なんか見たら私」


 ……ねぇ、もうさ。これさ。決まりじゃん? マリちゃんが執拗にこんな事してくるのって、つまりそう言う事じゃん? そうだよ。絶対そうだ、ていうかそうとしか思えない。藍川マリ……。間違いない、この子。


「多分、本気になっちゃうから」


「……」


 私を口説き落とすつもりだ……!


 あーもう! 本気って何!? 本気になるとどうなっちゃうの!? ていうか、えっ、ちょっと。ちょっとマリちゃん。何でマリちゃん、急に私の肩に頭を預ける? 軽っ、小学生の頭めっちゃ軽っ! え、ずっとそうしていて欲しい。え、え、やば。


 まずい。飲まれる。マリちゃんのペースに引き摺り込まれて丸呑みされる……っ! こんなの抗えない……っ! ダメなのに。私、何が何でもこのキャバクラを潰さなきゃいけないのに!


「わ、私達さ!」


 私はこのままずっとくっついていたい気持ちを押し殺し、理性を奮い立たせながらマリちゃんの頭を引き剥がした。飲まれてなるものか。この小悪魔ごときに私の尊厳を奪われてなるものか。だから。


「今、好きな漫画の話してたんだよね」


 私は話題の矛先を数分前へと戻す。いくらやり手のキャバ嬢であろうと、彼女が小学生である以上決してついて来る事の出来ない世代の話へと。


「マリちゃんは知ってる? ブリーチとか、リボーンとか、ハガレンとか」


 さぁ、どうするマリちゃん。ここから先は私のターンだ。才能と努力では決して埋める事の出来ない時間と言う名の暴力を、今から嫌という程思い知らせてあげ


「えーっ! プロデューサーさんも好きなの!? その漫画うちにもあるんだよね、お父さんとお母さんが集めてて!」


 知ってるのかよ〜!


「それでねそれでね! うちの推しは日番谷隊長と雲雀さんとマスタング大佐で!」


 推しキャラも同じかよ〜〜!

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