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異世界で小学生やってる魔女  作者: ちょもら
[第3.5話 魔女達と日常の話]
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お楽しみ会 ③

2月中旬に国家試験のため、本格的な勉強期間に入ります。一ヶ月程更新をお休みさせていただきます。

「ハガレンって凄くないですか! 物語後半で判明する重要な事実にあんな序盤で気付いたヒューズ中佐有能過ぎって言うか!」


「そうなの〜!」


「あ、ちなみにうちリボーンはヴァリアー編が最高だと思っててー。いや、もちろん未来編に出て来た皆んなの大人姿もカッコいいんですよ? でも未来編はちょっと長すぎる印象があって」


「わかる〜〜〜〜!」


「あとあとサチさん! ブリーチの完結編見ました? うち旧アニの方も配信サイトでちゃんと見てるんですけど、やっぱり最新の作画技術で作られた完結編のクオリティやば過ぎっていうか! もう10年ぶりに完結編のアニメを作ってくれたスタッフには感謝しかないっていうか! あと完結編二期の最終回で死神図鑑が復活してくれたのも最高っていうか!」


「だよね〜〜〜〜〜〜〜〜! ……ハッ!?」


 久しぶりに出会えた同じ趣味を持った同志とのお喋りに夢中になり過ぎた私。乾いた喉を潤そうと、もう何杯目になるかもわからないカルピスを一気飲みしようとした時だ。たまたま私の視界に時計が映り込んだ事で、私は1時間近くもキャバクラで豪遊していた事に気がついた。


 正気に戻った所で、今一度テーブルの上を覗いてみる。ヘルプの子達の分も含め、最低でも20杯は注文したであろう飲み物の数々。軽食であるクッキーの盛り合わせ(キャッスル盛り)も女の子一人につき一皿注文しているし、一体私はこの1時間でどれだけの浪費をしてしまっているのだろう。底知れない恐怖が胸の内から湧き上がり、気がつくと私は。


「……って、ちっがーーーーーーうっ!」


 飲みかけのカルピスが入ったグラスを思い切りテーブルに叩きつけてしまったのだった。


 それがちょっとした騒動のきっかけになるとも知らずに。


「きゃっ……!」


 そんな小さな悲鳴を上げたのは、女の子達の中で唯一、指先から肘までを覆うオペラグローブをはめたリリちゃんだった。私の飲みかけのカルピスが、テーブルに叩きつけられた衝撃で宙に舞い、彼女の両腕を覆い隠すように纏わりついたその手袋に降りかかったのである。


「あ、ごめん!」


 私はすぐさまカルピスの染み込んだオペラグローブを外そうと、リリちゃんの手袋に手を伸ばしたのだけれど。しかし私の手は、リリちゃんの手袋へ届くまでもなく阻まれてしまう。


「あの……マリちゃん?」


 ここまでガチ恋キャバ嬢としての暴力をこれでもかとばかりに見せつけていた接客の修羅マリちゃんが、鬼気迫る表情を浮かべながら私の手首を強く握りしめる。あのマリちゃんからこんな攻撃的で礼儀に欠ける行為が行われるとは思ってもいなかった私は、その突然の出来事に一瞬思考が止まってしまった。


「あ……ご、ごめんなさいプロデューサーさん。その……いきなりだったからビックリしちゃって」


 マリちゃんもマリちゃんで、自分が何をしているのかそこでようやく気付いたのだろう。慌てた顔で私の手首を離しながら、苦笑いを浮かべて謝った。


「リリちゃんも。お客さんにお世話なんかさせないの。早くグローブ取り替えておいで?」


 その後、手袋をカルピスで濡らしたリリちゃんにそう促すと、リリちゃんは小さく頭を下げてからそそくさとお店の裏へと小走りで去っていくのだった。


「……」


 何故だろう。その際のリリちゃんの走り去る姿が、やけに印象深く私の記憶に残ってしまった。まるで腕を庇うように、更に言ってしまえば手袋の内側を隠すように逃げるリリちゃんが、嫌に気になる。


「あはは……、ごめんね? 白けさせちゃって。ささ! 飲み直そ!」


 ……まぁ。


「はい、プロデューサーさん。あーんして?」


「マリちゃん……っ!?」


 マリちゃんがクッキーをあーんしてくれた時には、その辺りの不安なんてすっかり忘れてしまったのだけれど。


 一回りどころか二回りも歳の離れた女の子から食べ物をあーんしてもらう行為に私は一瞬躊躇を覚えるも、しかし今の私は大好きな飼い主からジャーキーを与えられるワンワンも同然だった。マリちゃんを突き放して彼女達を正しい道へ誘わなければばならないという理性が、このまま彼女のワンちゃんとして生きていきたいという本音に侵略される。どうする? どうするの有生サチ。33のいい歳した大人が、こんな子どもの虜になって恥ずかしくないの? 本当にそれでいいの有生サチ!?


「どう? 美味しい?」


「うん……っ、おいちい……!」


「あははっ! プロデューサーさんワンちゃんみたーい!」


 別によかった。マリちゃんがあーんしてくれるクッキーを食べたい欲望には抗えなかったのだ。何より私には、例えマリちゃんのワンちゃんになったとしても必ず勝てるという確証があったから。何故なら私は時計を見てしまった。私がこの席について、いよいよ1時間が経過しようとしているのを、しかとこの両の眼が見届けたのである。


 キャバクラというのは、通常は1時間制で楽しむもの。制限時間さえ来てしまえば、私はこの蠱惑の空間を抜け出せる。制限時間という名の絶対的な力が、否が応でも私とマリちゃんを引き剥がしてくれるのだから。


 完敗だよマリちゃん。だって私、マリちゃんにガチ恋しちゃったもん。認める。そこはもう認めざるを得ない。だけど、結局この恋心が続くのも制限時間内での話なんだ。


 あと五分もすれば、私はシステムに従ってこの店を後にしなければならない。そして、それが私とマリちゃんの永遠の別れになるのだ。


 あと5分で私とマリちゃんは赤の他人になる。私達を繋ぐ架け橋なんて愛でもなければ恋ですらなく、一夜限りの火遊びでしかない。フッと軽く息をかければ消える程度の、淡く儚い火遊び。


 さようなら、マリちゃん。1時間という、恋というには儚過ぎる関係だったとは言え、とても充実した1時間だったよ。残りの5分間も、私は郷に従ってマリちゃんのワンワンでい続ける。でも、5分が過ぎたら私達の関係はそこでおしまい。お互い、別々の人生を頑張って生きようね。私、赤の他人になっても祈り続けるから。マリちゃんの人生に、栄光の幸あらん事を。


「プロデューサーさん」


「うん」


「あと少しでうち達の時間も終わりだね」


「……そうだね」


「最後に一枚だけ、記念撮影してもいいかな?」


「もちろん」


「わー! ありがとう! じゃあ行くよー? ……うん! バッチリ撮れた。見て見てプロデューサーさん」


「どれどれ……。わ、本当だ。可愛く撮れてるじゃん」


「でしょー? それじゃあプロデューサーさん。写真送りたいから、うちとLINE交換してくれる?」


「いいよー」


 私はスマホを取り出し、友達リストにマリちゃんを……


「……ハッ!?」


 追加したその時。私は気付いてしまったのだ。記念撮影をした後に、写真を送りたいからという口実でお客さんとLINEで繋がるこのやり方は、私が普段よく使っている、太客候補の連絡先をゲットする為の常套手段であった事を。


「プロデューサーさん」


 そして私は理解する。


「LINEありがとうね?」


 私はもう、彼女と赤の他人になる事は出来ないのだと。


「折角繋がれたんだし、今度は同伴とか誘ってくれると嬉しいな」


 プライベートでも彼女にリードを握られる、負け犬ワンワンに成り下がってしまったのだと。そして何より。


「プロデューサーさん。お手」


「……っ、……ぐっ…………うぅ……っ」


「はーやーくー」


「……あ、あおーーーーん!」


「あはは! サチわんわん可愛いー!」


 彼女の犬として生きていける事を、光栄に思ってしまう私がここにいる紛れもない事実に。


 ……。


 ……でも。


 ……それでも。


 ……二十も歳下の女の子に犬になれて嬉しくなっちゃうような私だけど。いや、そんな私だからこそ!


「……マ、マリちゃんっ!!」


 尚更譲れない大切な事が、私の心に生まれてしまった。当たり前だよ、だって。


「んー?」


「その……ね? マリちゃんの気持ちは、とても嬉しい。本当に嬉しいんだよ? でも……それでも私、マリちゃんみたいな女の子にはこう言うお店で働いて欲しくないって言うか」


 犬っていうのは、この世の誰よりも飼い主に対する独占欲が強いから。だからこそ、マリちゃんには即刻キャバ嬢を辞めて欲しいと願ってしまうのだ。マリちゃんは私だけのマリちゃんでいて欲しい。私の見ていない所で、どこの誰とも知らないおじさんの接客をするなんて、そんなの耐えられない。彼女の犬に成り下がった私だからこそ、彼女には清く正しい人生を送って欲しいと、そう願ってしまった。


「その服とかさ、凄いじゃん? 露出。そう、露出! 何なのその胸元? そんなひらひらはだけさせてさ! こんなの何かの拍子で見えちゃってもおかしくは!」


 だから私は彼女の考えを改めさせるべく、残り3分しかない制限時間を彼女の説得に用いようと。


「じゃあ、代わりに何か詰めて隠してよ」


「へぇあっ!?」


 そう決心した筈なのに。しかし次の瞬間、私の決意を黒く染め上げるように、私の顔に影がかかる。マリちゃんが椅子に座る私の太ももに跨り、対面で自分の無防備な胸元を私の顔に近づけて来たのである。


「このドレス、お母さんのなの。だから胸元がブカブカでしょ? これじゃあプロデューサーさんの言う通り、何かの拍子で見えちゃいけない物が見えちゃうのも仕方ないよ」


「……」


「だから……ね? 何かここに詰めて、隙間を埋めて欲しいな」


「な、何かって……?」


「何でも良いけど、強いて言うなら紙とか?」


「紙?」


「うん。何かない? プロデューサーさんの気持ちがこもった、大切な紙」


「私の気持ちって……」


 そして。


「……あった」


 気がつくと私は、お楽しみ会で使用するお買い物券を、マリちゃんの胸元に詰めていた。一枚、二枚、三枚、四枚。千円分のお買い物券を、次々と彼女の胸元に詰めてその隙間を埋めていく。そうしておよそ五万円分のお買い物券を彼女の胸元に詰めたあたりで。


「ありがとう、プロデューサーさん」


「……」


「好き」


「……」


「本当に好き」


「……」


 私の体と心はもう、愛を求める以外何も出来ない抜け殻へと化すのだった。


 でも、当たり前の事だった。確かに私はこの数年間、キャバ嬢として様々な男を落とし続けて来た身だ。けれど私のそれは全てがキャバ嬢としての責め方であり、キャバ嬢に責められた際の対処法なんて、今までたったの一度として覚えようとは思わなかったのである。謂わば私は攻撃極振りの紙装甲。どれだけ攻撃に秀でた勇者であろうと、防御力が0ならスライム相手でも致命傷である。スライム相手で致命傷なら、藍川マリというサキュバス魔王に攻撃された日にはもう……。


「お客様。そろそろお時間です」


 そしていよいよ制限時間が迫ったようで、黒服姿のダイチくんが、1時間の終了を知らせに私達の席へとやって来る。当初の私の目的であった、キャバ嬢の過酷さをわからせてこの店を潰す作戦も、今となっては叶わぬ夢へと成り果てた。しかしこのサキュバスに魂を食われて抜け殻となった今、もはやそんな目的なんてどうでもいい。精力を吸い尽くされたからには、今日はもう家に帰ってゆっくり休みたい気分でいっぱいいっぱいで。


「あーあ。もう時間になっちゃったね? プロデューサーさん」


「……」


 休みたい気分でいっぱいいっぱいだったのに。


「プロデューサーさんが帰ったらうち、色んなおじさん達の相手をさせられるんだろうなぁ……」


「……マリちゃん?」


「……なーんてね。ウソウソ冗談。しょうがないよ、そういうお仕事だもん」


 そう呟くマリちゃんの表情は、まるで人買いに連れ去られる子羊のようで。その上彼女の囁いた言葉の一つ一つが、嫌にリアルに私の脳裏で映像として浮かび上がって。汚いおっさんどもの食い物にされるマリちゃんの姿が、私の頭にこびりついて。


 ……嫌だ。私以外の誰かにマリちゃんがご奉仕するなんて、そんなの絶対やだ! マリちゃんは私んだ! 私だけのマリちゃんなんだぁっ!! 


「あの……ダイチくん」


 だから私は、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべながら。


「延長8時間……っ、お願いします……っ」


「プロデューサーさん……!」


 そんな私とは対照的に、マリちゃんはとびきりの笑顔を浮かべながら。


「場内もらいましたー!」


 私の戦いは延長戦へと突入するのだった。


 なお、この後私はこの凄惨な現場を目撃したPTAの人達に捕まり、子ども達の喫茶店を大人の喫茶店へと変えてしまった事について数え切れない程の謝罪をする事になる上、りいちゃんが卒業するその日までPTAの皆様から更なる白い目を向けられる事になるのだけれど。


 それはまぁ、また別の話という事で。

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