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異世界で小学生やってる魔女  作者: ちょもら
[第3.5話 魔女達と日常の話]
359/369

不良と人形と人殺しと ⑨

 ◇◆◇◆


「ねぇ、ダイチくん」


「どした?」


「このネズミだけど、どうやって処分したら」


「あー、これはな」


 店の厨房に仕掛けたネズミ取りの粘着シートに、一匹のネズミがべったりと張り付いている。池袋という繁華街で飲食店をする以上、こういう害獣との付き合いは避けようがない。俺は今日限りのお手伝いであるタロウの前で業務内容の一つ、ネズミの処理の仕方を披露してやるわけだけど。


「粘着シートを折り畳んでネズミをサンドする。そしたら水の張ったバケツに入れて溺死させて、後は普通にゴミ袋に捨てれば終わりだ。簡単だろ?」


「……」


 その一連の流れを見たタロウの視線は、めちゃくちゃドン引きしているように思えた。


「んな顔してんじゃねえよ。お前だって続けてればその内慣れるぞ」


「僕今日限りの助っ人だけど」


 そんなこんなで俺達の少し早めの職場体験が、今幕を開ける。


 今朝、イヴさんとタロウのいざこざに首を突っ込んでしまった俺。そのいざこざの終結は、イヴさんが怒りながらどこかへ行ってしまうと言う、果たしてそれを解決と呼んでいいのかわからない曖昧な結果となったが、ともかく俺の横槍のおかげでタロウはイヴさんの標的から解放されたわけだ。


 こうしてタロウは面倒な事件から脱する事に成功したものの、その直後、今度は俺に面倒ごとが降りかかる。今日の焼肉屋のバイト……もといお手伝いは19:00から予約客が殺到するのだけれど、肝心のバイトがバックれてしまったとおばさんから連絡が来たのだ。誰でもいいから助っ人を見つけて欲しいというおばさんの懇願を受け、俺は一か八かタロウをお手伝いに誘ってみた。


 で。


「今日は頼りにしてるぜタロウ。まぁ予約が殺到するのは19:00以降だ。立教大のパリピ共が馬鹿騒ぎしに来るけど、それまでは予約客も一組しかいねえし適当にやってていいから」


 イヴさんとのいざこざを解決してくれた俺に恩義を感じているんだろう。タロウは珍しく俺のお願いを快諾し、こうしてお手伝いとして参加してくれている。


「頼りにしてるって言われてもね……。僕、しばらくは魔法とか使えないし、見た目通り子ども一人分の戦力にしかならないよ?」


 とはいえ、肝心のタロウはと言うとあまり自信はないらしい。普段のこいつなら、大人顔負けの怪力に職人顔負けの器用さを兼ね備えた精密機械のような働きが出来るものの、それが出来てたのは魔法の力による物らしく。

 

「誰かの喧嘩に巻き込まれたせいで魔力は全部使っちゃったし」


「俺のせいみたいに言うのやめてくんね? 悪いのはヨウイチさんだろうが」


 しかし今のタロウは、先日のヨウイチさんとの一件でしばらく魔法が使えなくなったらしく。


「……」


 魔法。魔法か……。


「……何?」


「……いや」


 俺は思わずタロウの頬を、指で摘んでしまった。


 柔らかい。ぷよぷよしている。触った感じ、正真正銘人間の頬だ。


「お前って、本当に人間じゃねえのかなって思って。どっからどう見ても人間なのに」


「……」


 俺はタロウの頬から指を離し、ヨウイチさんとの一件を思い出した。


 あん時、タロウから教えられた信じられない話の数々。魔界の話とか、魔女の話とか、タロウ自身の話とか。タロウの言葉に嘘がないのはわかっているつもりだ。実際俺は魔法が実在しないと有り得ないような光景を何度も見る羽目になったし、それ以前からもタロウの人間離れした身体能力については嫌という程見せつけられているんだから。


 この世界には魔法が存在する。タロウも有生も本来はそっち側の住人で、今だけ特別にこっち側にいるだけの存在。次の春には永遠の別れを遂げる事になる、そんな存在。


 ……とは言うけどさ。いざこうして日常に戻っちまうと、どうしても実感って湧かなくなる。有生が人間でないのはまだしも、こいつに至っては人間でないどころか生物でさえないのかも知れないとか、そう簡単に受け入れられるもんじゃねえよ。


「わり。なんでもねえ。まぁあんま気負うなよ。俺的には猫の手も借りたいくらいだったんだ。人間の手が借りれるなら、子ども一人分の戦力でも十分心強えよ」


 でも、受け入れるしかねえんだよな。受け入れた所で、俺を助けてくれた有生に似たあの魔女の話だと、俺のこの記憶が保つのも次のお楽しみ会までらしいけど。


「ダイちゃーん、タロウくーん。今日はよろしくねー? 特にタロウくんは来てくれてありがとー! 急にバイトの人が来なくなるもんだからおばさん本当助かるわー」


 少しして、準備中の看板を営業中の看板に差し替えるべく、厨房の方からおばさんが出てきた。いよいよ開店の時間が迫って来ているらしい。


「えっとね、今日はこれから一組だけお客さんの予約が入っているけど、19:00までは基本暇なはずだから。とりあえずそれまでタロウくんは、ダイちゃんのやってる事を真似して覚えてくれれば大丈夫よ?」


「はい、頑張ります」


「わ、頼もしいお返事ですこと! それじゃそろそろ予約のお客さんが来るから準備してねー?」


 営業中の看板を持って店の入り口へと足を運ぶおばさん。


「よし。とりあえず注文とかは俺が取るから、お前は料理運ぶのと皿を下げる事だけに専念してくれ。大して難しい事でもねえし、気楽に………………」


 俺はそんなおばさんの背中を見送りながは予約の名簿を手に取り、この後すぐ来るであろう最初の予約客の名前を確認したのだけれど。


「ダイチくん?」


「……」


「おーい」


「……」


「ダイちゃーん。ダッちーん。聞こえてるー?」


 もちろん聞こえている。なんならぶん殴ってやろうかとさえ思ったけど、しかし揶揄われている怒りを軽く上回るような衝撃がその予約名簿には記載されていたのだ。


 俺は見間違いである事を祈り、一度自分の目を擦った。しかし予約名簿に書かれたそれに間違いはなく、俺の心臓は嫌な意味で異様な高鳴りを轟かす。


 予約時間、PM17:00。予約人数、5名。予約者名。


「有生……?」


 と、次の瞬間。


「ダイちゃーん! お客さん来たわよー!」


 看板を営業中に切り替えたおばさんが、奴らを引き連れやって来た。


 俺は神に祈る。ここは繁華街池袋。駅の乗降客数世界3位の池袋なんだ。毎日うん百万人もの人間が行き交うこの街なら、有生のような珍しい苗字が二つ三つあってもおかしくはない。だからきっとこの予約客の有生さんは、俺の知っている有生とは別の有生だと。


「わ! 私達一番乗りじゃん。伸び伸び出来そうでラッキー」


 そう思いたかったのに。入店して来たその人物の姿は、どう見ても俺の顔見知りである10代にしか見えない30代の女性だった。


「良い匂いがしますー。ここの一番高いお肉はなんですかねー?」


 続いて癖っ毛を無理矢理ヘアピンで抑え込んだ、性格の悪そうな女子が入店して来た。


「もーう! またお肉なの? あたし達にご馳走してくれるのは嬉しいけど、こうもお肉料理が続くとお肌が心配だわ」


 髪をツインテールに縛った、美意識の高そうな女子も入店して来た。


「何々……? 新鮮なお肉が売り……? そこまで言うからには厨房の中で直接殺してるんだろうな……? えっえっえっえっ……」


 なんか頭のヤバそうな女子も入店して来て、そして最後に。


「いやー、危なかったっすね! 誕生日プレゼントでダイチに貰った焼肉食い放題券すっかり忘れる所だった。おいお前ら、今日は食いまくってこの店潰そうぜ? あっひゃっひゃっひゃっ」


 ただの馬鹿が高笑いをあげながら入店して来るのだった。


「こら、りいちゃん! ダイチくんの親戚のお店なんだから潰すとか言わないの!」


「ハハッ、めんごめんご」


 俺はこの店を潰そうと目論む馬鹿を遠目で見ながら頭を抱えた。そりゃ確かに夏休み終盤、あいつの誕生日プレゼントとして、おばさんから貰ったここの食い放題券あげたけどさ。


「俺がシフト入ってる日は来るなって言ったのに……っ」


 でも俺、サチさんに言った筈なんだよ。俺がここでお手伝いしてんのは有生に内緒だから、来るなら俺のシフトのない日に来てくださいって。絶対言ったはずなんだよ。なのに何で来てんだよサチさん。あの時の約束忘れたのかよ。


「わー、老舗って感じの焼肉屋さんだね。前にダイチくんから来店して欲しくない日とか言われたような気もするんだけど、いつだったか忘れちゃったしいいや今日来ちゃえって思い立ったけど、来てよかったー」


 忘れてるらしかった。俺はマスクとサングラスを装着し、頭にもタオルを巻いて髪型を誤魔化す。こうなったらとことん正体を隠して接客するしかない。そうなってくると後はタロウの問題もあるけど……。


「おいタロウ。俺ここでバイトしてんの有生にバレるわけにはいかねえんだよ。お前もなんとかバレずにやり過せねえかな……?」


「へー、事情はわからないけど大変だね。まぁ頑張れば数秒くらいなら魔法も使えるし、あのテーブルに行く間だけ姿を変えたりとかなら出来るよ」


「マジか!」


「うん。ところでこのお店のデザートに自家製プリンってあるんだけど美味しそうだね」


「てめえ俺を脅してんのか……? わかったよ、奢ってやるからマジで頼むぞ……っ」


 タロウは俺にサムズアップをして見せた。


 何はともあれ、これで最低限の誤魔化しは効くだろう。つってもこんなその場凌ぎのおざなりな変装だ。バレる可能性は十分あるし、万が一バレた時に備えてそれっぽい言い訳も考えておかな……


「ダイチくん……? どうしてかしら。その名前、どこかで聞いた覚えがあるわ」


「あれじゃないかガッキーちゃん……。春の報告会でホリーちゃんが見せてくれたやつ……」


「あー、なんかそんなのいたねー? 確か無駄に背が高い感じの男の子ー」


「……あっ! 思い出したわ! そうよ、あんたの事をいじめてたクソガキじゃない! ここあいつの店なの!? 上等だわ、あの顔見つけた瞬間ぶっ殺してやるんだから!」


 ダメだ。万が一もバレるわけにはいかなくなった。特になんだあのツインテ、何で初対面のお前にそこまで殺意抱かれなきゃいけねえんだよ、つうか誰だよお前。


「こらこらガッキーちゃん、ご飯の場でそんな殺気立たないの! そりゃあ、りいちゃんの同郷の幼馴染でりいちゃんの事を大切に思ってくれるのは嬉しいけど」


 有生の同郷の幼馴染らしかった。となるとあの癖っ毛女子とヤバげ女子も……。


「ミーちゃんとリジーちゃんもりいちゃんの同郷の幼馴染だからって殺気立ったりしないでね? 食事の場なんだから皆んなお行儀よく食べよ?」


 有生の同郷の幼馴染らしかった。という事はあの三人もやっぱり魔女だったり……。


「それじゃあみんな座って座ってー。家で食べる焼肉とお店で食べる焼肉って全然違うんだから。折角みんな異世界から遊びに来た魔女なんだし、こっちの世界の美味しいものたんと食べてよ!」


 異世界から来た魔女らしかった。ていうかサチさん、さっきから俺の知りたい事めっちゃ説明口調で教えてくれるじゃん。ありがたいわ。


「すみませーん!」


 と、その時。早速サチさんからお呼びがかかる。俺は頭に巻いたタオルを目一杯目元まで引っ張り、注文を受けに向かった。


「……お、お待たせしました」


 声も不自然過ぎるくらい低く保ち、注文を聞く。


「えーと、まず最初はタン塩だよね。他はロースにカルビに……あ、そうだお野菜も摂らないとだからチョレギサラダも追加してー。みんな、ドリンクは何にする?」


 よし。今のところ皆んなメニューに夢中で、店員の俺の事は気にも留めていない。俺はひとまず胸を撫で下ろしながら注文の品を聞き取るのだけれど。


「ん?」


 なんだろう。俺の真横にいる食欲モンスターの有生が、メニュー表に一切興味を示さず神妙な顔つきをしているのが気になった。しかも有生、なんか体がプルプルしているような……。ってあれ? よく見たら有生のやつ、中腰で空気椅子をしている。一体何をして……。


 と、次の瞬間。俺の鼻に異臭が飛び込む。それと同時に有生の表情が和らぎ、満足そうな顔でメニューに目を通し始めるのだった。


「……っ」


 この野郎、皆んなで飯を囲む場で屁をこきやがったな。


「えーっと、じゃあ今のを五人前ずつでお願いしまーす」


「か、かしこまりました……」


 俺はサチさんからの注文品を記録し、厨房の方へと向かうのだが。


「……ん? なんだ……? なんか臭いぞ……」


 その瞬間、奴らの中のヤバげな女子も俺と同等の違和感に気づいたらしい。


「あ、リジーお前も気付いたか? これ屁の臭いだよな。ぜってえ今の店員だぜ? やべえなあいつ、接客業なんだと思ってんだよ」


 ……。


 どうしよう。もう二度と人は殴りたくないって思っていたのに、あいつは一度殴っておかないといけないような気がした。


 厨房に戻って、注文品を伝える。それから料理の用意が出来るまで待機していると、隣にタロウがやって来て俺の肩を組んできた。


「ダイちゃんあれ好きなの?」


「……」


「あー言うのって、多分銭湯や温泉でも平気でおしっこするタイプだよ。好きなの?」


「……」


 こいつも殴った方がいいかも知れない。今のこいつが相手なら普通に喧嘩で殴り勝てそうだし。


「はいダイちゃん! これお願いねー」


 しばらくして、サラダとドリンクとユッケの用意が出来た。俺はおばさんからそれらの品を受け取って、サチさん達のいる5番テーブルへと運ぶ。


「お待たせしましたー」


 テーブルについて料理を並べる。ふと見てみると、サチさんの姿が見当たらなかった。トイレだろうか。俺は構わずテーブルの上に料理を並べるのだが。


「ん?」


 何故だろう。有生の幼馴染三人組は楽しそうに談笑しているにも関わらず、有生だけお喋りに加わらずに明後日の方向を見ている。一体何をしているのかと思い見てみると。


「ふーんふーんふふーん」


 周りに見えないよう、鼻歌を歌いながら鼻をほじっていた。……って、あ! しかもこの野郎、鼻くそ食いやがったぞ!


「……っ」


 とは言え大声をあげるわけにもいかないので、俺は込み上げる何かを喉の奥へと押し込み、何も見なかった事にして厨房の方へと戻った。


 厨房に戻ると、さっきと同様またしてもタロウが俺の肩を組んで来た。


「ダイちゃんあれ好きなの?」


「……」


「ファーストキスはいちご味とか言うけど、あれ多分鼻くそ味だよ。好きなの?」


「お前もしかして俺にしばかれたくてわざと言ってる……?」


 タロウの胸ぐらを掴んでしまった。

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