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異世界で小学生やってる魔女  作者: ちょもら
[第3.5話 魔女達と日常の話]
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不良と人形と人殺しと ⑦

「で? 具体的なデートプランは?」


 放課後になり、繁華街の方へと足を伸ばした私達。私の人生初のデートは、一体どれだけ華やかな物になるのかとワクワクしていると。


「え? プ、プラン? じゃあえっと……、あの、その……。ゲーセン」


 すぐにこいつが陰キャであった事を思い出す。……って、違う違う。お試し期間とは言え付き合っている時くらいは、コウキくんと言う名前を呼ぶ事にしているんだった。


 でもいきなり初デートでゲーセンとか、こいつ呼ばわりされても仕方がないと思う。せめて二人で盛り上がれるゲームなら良いんだけど、でも私の予想だとこういう陰キャがゲーセンに彼女を連れて行く理由って……。


「おい見ろよ赤海! 凄えだろ!? 俺このゲームマジで得意なんだよ! 一瞬だけどランカーになった事もあんだぜ!」


「……」


 ほらやっぱり。微塵も羨ましいと思う事の出来ない偉業を、誇らしそうに自慢してくる。一人でダンスゲームに熱中するコウキくんの姿に、私の眉間がひくついた。


「って赤海? どうしたんその顔!? 俺なんかまずい事した?」


「とりあえず一回ゲームやめたら」


「え!? でも今めっちゃいいとこなんだけど!」


「こういう時って、普通二人で楽しめるゲームをするもんじゃないの?」


「……」


 私に言われ、ハッと我に帰るコウキくん。コウキくんはすぐさまプレイ中の足を止めるものの、しかしゲーム台から降りる気配は見せなかった。気まずそうに私を見ながら、そっと私に手を差し伸ばす。


「あ、赤海も一緒にやる……? これ二人で対戦も出来るんだけど」


「それ本気で言ってる?」


「え? ……あ」


 そこに来て、ようやくコウキくんの視線が私の義足に向けられた。片足の私にダンスゲーム自慢するだけでも相当なノンデリなのに、あまつさえ私をダンスゲームに誘うだなんて。しかもあの間抜けな表情を見るからに、自分がどれだけ酷い事を言っているのかも気づけていない、完全な無自覚のようだ。


「……」


 どうしよう。既に別れたい。


「……いや。だ、大丈夫、一緒にやろう!」


 なんて思っていると、コウキくんの口から私の予想を超える提案が出てきた。コウキくんは私に背を向け、その場で跪きながら。


「お、俺がおんぶするし」


 そんなアホみたいな発想をしてきたものだから。


「何それ。馬鹿じゃん?」


 失笑にも近い形だけれど、私はそんな彼の馬鹿馬鹿しさに思わず笑みが溢れてしまった。





 次に私達が足を伸ばしたのは、高層ビルの中と屋上に水族館を構えるサンシャイン水族館


「ごめん赤海……、来週の小遣いまで俺残り3000円しかない……」


 には入館出来なかった。高校生の入場料が2600円だからである。私はそんな貧乏なコウキくんに対し、何の悪意もない純粋な質問を投げてしまった。


「なんで?」


「は?」


「なんで3000円しかないの?」


「なんでって言われても」


「ちょっと無駄遣いし過ぎなんじゃない? 普通お小遣いなんて毎月1万か2万は貯金するでしょ?」


「いや、ちょっと待って。俺のお小遣い、その貯金額より既に少ないんだけど赤海って毎月いくらお小遣い貰ってんの……?」


「5万」


「5万!?」


「まぁね。うち、お父さんが銀行勤めの上級国民だから」


「そういうの自分で言うのかよ……」


「でもお母さんはケチなんだよねー。お昼代として毎日1000円しかくれないし」


「いや、十分過ぎるだろ……って、ハァ!? 毎日1000円!? お小遣いとは別に昼飯代も毎月3万貰ってるって事!?」


「ね。少な過ぎてびっくりだよね。本当に娘を愛してるならその倍はくれないと」


「いやいやいや……」


 そんな会話をしていると、少しずつ私達の心の距離が開いていくのを感じた。ちなみに横方向にではなく、縦方向にである。私達の経済格差が、互いの身分差を残酷なまでに見せつける。


 上級国民との身分差を実感し、すっかり尻すぼみしてしまったコウキくん。私はそんな彼の顔を覗き込みながら、いやらしい笑みをちらつかせる。


「コウキくんさ。私と対等に付き合いたいなら、相当努力しないとだね?」


「ぐぅ……」


「いひー」


 そしてすっかり小物化したコウキくんに、ネズミやハムスターのような弱き者に感じるような何とも言えない愛嬌さえ感じてしまった私である。私は彼の手を掴み、水族館の方へと引っ張った。


「あ、赤海?」


 突然の行動にコウキくんは驚くものの。


「行こうよ。今日の所は私が奢ったげるから」


「いや、でも「そのかわり」


 私は遠慮気味なコウキくんの唇を人差し指で押さえ。


「出世払い、期待してるよ? 私と付き合いたいなら私に見合う男にならなきゃ」


「……」


 私達はそのまま水族館デートへと洒落込む事になった。





 こうして私達の放課後デートは淡々と過ぎて行く。


 水族館の中では、知識面でマウントを取ろうと、コウキくんがこそこそスマホを覗きながら生き物の解説をしてくれた。けれどそんな即席で仕入れた知識はどこもかしこも穴だらけであり、彼が解説をする度にその誤った知識を私が都度訂正してあげたものだ。その度にコウキくんは自信をなくしながら落ちぶれていくのだけれど、その姿がとても面白かったのをよく覚えている。


 水族館デートを終えた後は、夕ご飯を食べた。コウキくんは『飯代くらい俺に払わせてよ。流石にここまで奢られたら俺のプライドが……』なんて言うものだから、ならばその男のプライドを立ててあげようと思い、ハンバーガーを奢って貰う事にした。ちなみにそのハンバーガーとはマックでもロッテリアでもモスバーガーでもなく、一番安いメニューが820円のツナサンドで、一番高いメニューが1490円のスモークモントレージャックチーズバーガーのハワイアンバーガー店である。私はそこで1490円のハンバーガーと890円パンケーキ、そして450円のマンゴーアイスティーを注文する。『俺今ダイエット中なんだ』と言い、水だけを飲んでいたコウキくんの姿がとても面白かった。


 夕飯の後はコスメショップにも行った。


『ごめん、俺もう金が……』


 お洋服も見た。


『ごめん、俺もう金が……』


 アニメイトにも行って。


『ごめん、俺もう金が……』


 アクセも見たりして。


『じょ、女子ってこういうネックレスプレゼントされたら喜んだりする?』


『わー、発想が童貞臭い。いきなりアクセとか重いんだけど。プレゼントされる方の身にもなってよ。会う度にこのアクセ身につけなきゃいけないの? みたいな思いしなきゃなんないじゃん。コスメとかさ、香水とかさ。まずはそういう使い捨てられる物からじゃないの?』


『……あー。はい。ごめん。俺……もっといい彼氏になれるよう頑張るから、本当……』


 その度に男らしさの欠片も見せないコウキくんの姿が面白おかしくて。


 多分、これも一つの見下しなんだろうな。何度も言うようだけれど、私は自分より下の人間が好きなのだ。健常者のコウキくんが情けない姿を見せる度に、私は優越感に浸れる。


 でも、なんて言うんだろう。今までの私はグループの外側から低脳な人間を見下しては、優越感に浸っていた。でも今の私は、カップルというグループの中に身を置きながら、同じグループのコウキくんを見下している。群れの外からでも群れの中からでも人を見下している事実に変わりはない筈なのに、今の私を包み込む優越感は、どうしてこんなにも暖かいんだろう。


『何それ? お試しで付き合ってるだけなのにもう彼氏ヅラ? きっもー』


 群れの外から誰かを見下していた時は、あんなにも冷たい気持ちだったのに。私今、自然な笑みが溢れてる。


『ま、頑張りたまえよ少年。暖かい目で見守っててあげるからさ』


 なんか、楽しいや。





「赤海は他に気になる人とかいなかったの?」


 いよいよ日も沈み切り、それぞれの家へと帰る事になった私達。もっとも私はまだまだあんな家に帰るつもりはないのだから、これからヒトカラでも洒落込むつもりでいるのだけれど、それでもせめて恋人(仮)の見送りはしてあげようと、駅までの道のりを二人で歩いた。コウキくんの口からそんな質問が漏れたのは、その道中での事である。


「私? いたよ?」


「あ……、いたんだ」


 私の答えを聞いて、コウキくんはわかりやすいくらいしょぼくれた表情を浮かべた。


「何シュンってなってんの? キモいなー。いるじゃなくて、いただから。過去形だよ過去形だよ」


「でもいたにはいたんだ」


「まぁねー」


「どんな人?」


「小六男子」


「はぁ!?」


 しょんぼりモードからびっくりモードへ切り替わる。表情の忙しい人である。とは言え小六男子の事が気になっていたとか言われたんだし、それも仕方のない事か。


「ま、そんな反応するよねそりゃあ。でもほら、私もあの時はどうかしてたから。ていうか一番悪いのはそいつなんだよ? 小六のくせに身長180くらいあるんだもん。雰囲気も喋り方も大人かよってくらい落ち着き過ぎだし、あんなの歳上だって勘違しちゃうじゃん」


「あー……、じゃあ別にショタコンとかそう言うのじゃないのな」


「ないないないないない! ありえない! 見た目年上でも実年齢小学生とか普通に萎えるから! 本当私の純情返せって感じだよ。あんなガキんちょを大人だと勘違いして色仕掛けしたのは、私の人生で1位2位を争うレベルの汚点だからね……」


「色仕掛けって」


「おまけに今朝だってさ」


「今朝?」


「……。あー、ううん。なんでもない。こっちの話」


 私は多少無理矢理ながらも、今朝の話題に関しては深掘りされない内に打ち切らせてもらった。折角久しぶりに良い気分なのに、朝の事を思い出してまた不機嫌になるなんて勿体ない。……とか言いつつ初デートに選んだこの街が、まさにその大人ぶったガキのいる街、池袋なんだけどさ。


 みってぃーと出会ったあの日から。……ううん、もっと遡ればトヨリちゃんの手紙を見つけたあの日から、何かと理由をつけては池袋に立ち寄る事が多くなった気がする。この土地にはもう、私とは悪い因縁で繋がった人物しかいないと言うのに。みってぃーと言い、トヨリちゃんと言い、いけすかない例の魔女と言い。……って、そうだ。この街にはあの魔女がいるんだった。


「まぁ安心しなよ。ひとまずはコウキくん一筋って事にしてあげるから」


「え……あ、うん。そりゃどうも」


「これからホテル行く?」


「あ、それじゃあ。……って、えぇ!?」


「うっそー。何本気にしてんの? ほんとキモいんだけどー」


 だから私、こんな因縁の街で初デートしようとしたんだ。この街にはあのいけすかない魔女がいる。魔界から来た救援の魔女であり、そして顔つきや会話の内容からして、多分みってぃーの実母であるクソ女。博愛主義を名乗る偽善者。


 私はそんな偽善者に、楽しそうに生きる私の姿を見せつけたかったんだ。娘の未来を奪った私の笑顔を見せつけて、怒り狂わせ、博愛主義を名乗るあいつの化けの皮を剥がしてやりたかった。


 どうだろう。私、結構初デートを楽しめてたと思う。今だってこの陰キャを揶揄うのが楽しくて、自然な笑みを浮かべている。あの偽善者は、今もこの街のどこかから私のこの笑顔を見ているのかな。見ていてくれてたら嬉しいんだけどな。


「ま、私と対等な関係になれるよう努力するんだったら、そう言うのもその内考えてあげるよ。でもその時は覚悟しときなよ? 私、多分コウキくんが思ってる100倍はどすけべだからね」


「100倍って……いや、どうせそれも嘘だろ」


「いひー。どうでしょーう?」


 そんな事を思いながら、駅までの道のりを淡々と歩いて。そして。


「じゃあね。今日は楽しかった」


 歩みの遅い私達は、ようやく駅前の広場まで辿り着く。


「え? 楽しかったの? 散々俺の事童貞臭いとか馬鹿にして来たのに」


「そういう童貞臭さ含めて楽しかったよ。なんていうか、挑戦ってしてみるもんだね。私ってこんな体だし、周りの人とか常に見下しているし、このままずっと一人ぼっちで生きていくつもりだったんだけどさ。なんか今、初めてデートしてみて人と過ごすのも楽しいかもって、思えて来てる」


 駅の入り口で、別れる前の最後の雑談を交わす私達。初デートの感想を嘘偽りなく語っていると、ふと、かつての友人の言葉が脳裏を過った。


「……昔ね。数少ない友達に言われたんだ。私に友達がいないのは、自分でこの体の事を卑下して卑屈になっているだけだって。私の方から歩み寄れば、いくらでも私には友達が出来るんだって」


 あの時は、そんな友人の言葉に激昂したものである。私の事も知りもしないで、勝手な事言ってんじゃねえって。誰とでも仲良くなれるお前が私を語るなって。あれで私は本当にザンドの事が嫌いになったし、なんなら今でもあいつを憎む気持ちは薄らいでいない。


「ねぇ、コウキくん。コウキくんも知っての通り、私ってクラスの嫌われ者じゃん?」


 薄らいでいないから。


「今からでも私から歩み寄ったら、皆んな私の事、受け入れてくれると思う?」


 私今、凄く悔しい。あいつの言う通り私の方から歩み寄ったら、こんな陰キャ相手にだって楽しいと思えてしまった自分が、本当に悔しい。誰かと過ごす楽しさを更に求めたいと思っている私が、ただただ悔しいのだ。それじゃあまるで、あいつの言ってる事の方が正しかったみたいだから。


「思う」


 だからコウキくんもさ、そんな無責任に『思う』だなんて首を縦に振らないで欲しいんだ。私達折角いい感じになれたのに、お前までザンドの肩を持つのかよって、少しコウキくんの事が嫌いになりそうだよ。でもそれと同じくらい。


「適当な事言ってるでしょ?」


「いやまぁ……確かにいきなりはムズイと思うけど。でもほら、俺も協力するし!」


「何言ってんの? 陽キャの金魚の糞のくせに」


 変な期待も持ってしまう。


「金魚の糞って……。で、でもこれはマジだから! ちゃんと話せばあいつらだってわかってくれるよ!」


 家にも学校にも居場所のなかった私が、これを機にクラスに溶け込めるようになって、学校が私の居場所になってくれるんじゃないかっていう、そんな淡い期待を。


「だって赤海、めちゃくちゃ面白えじゃん!」


「面白い? 私が?」


「面白えよ! だって俺も今日めっちゃ楽しかったから!」


「あんなに馬鹿にされたのに?」


「そ、それでもマジで楽しかったんだよ! ……あいつらもさ、赤海とちゃんと絡んだ事ないからあんな事言うんだよ。ちゃんと赤海の事を理解してくれたらあいつらだって……。……いや、違う。あいつらの誤解が解けるように、俺が頑張ってみるから」


「……」


「それで赤海がクラスのみんなと打ち解けられたらさ。そしたら俺、学校の中でも堂々と赤海と付き合ってるって、胸張って言えるし」


「……」


「ていうか、胸張って言いたいし……」


「……そっか」


「……おう」


 それから少し、私達は黙り合った。こんな熱烈なアプローチなんてされた事ないし、何て返せばいいのかわからないんだ。


 でも、このままじゃ私達は永遠に動けない。コウキくんは私の返事待ちだし、私から何かを言わなきゃずっとこのままだ。


 だから私は考えて。彼の事を散々童貞と馬鹿にした分、私は経験豊富な感じが滲み出るような気の利いた返事をしなくてはと、勝手に思い悩んで。でもそんな気の利いた言葉がそう簡単に浮かんで来たりする事はなくて。それでも頭を捻らせながら考えて、考えて、考えて。


「じゃあ」


 そうやって捻り出した返事は。


「少しだけ頼りにしてみる」


 結局何の面白味もない、平凡な答えで。


「おう!」


 でも、コウキくんはそんな平凡な答えでも満足そうに頷いてくれて。


「ありがとう」


 そして私は、足取りの軽くなった彼の背中が駅の中へと消えて行くのを、そっと見守った。

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