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異世界で小学生やってる魔女  作者: ちょもら
[第3.5話 魔女達と日常の話]
341/369

博愛の魔女 ⑦

『ダイゴロウ』


『……』


『ダイゴロウ!』


『……』


『ダ! イ! ゴ! ロ! ウ!』


『え…………あ……』


 ダイゴロウさんの目と鼻の先まで顔を近づけて、冬霜に冷やされた白い吐息を吐きかけるように彼の名前を叫ぶ事で、ようやく彼は夢の世界から帰還を果たす。


『おはよう。朝ごはん出来てるわよ』


『…………あぁ。おはよう』


 彼の起床を確認した私は、家が零下の世界に包まれるよりも前に、火鉢と囲炉裏に火を灯した。


 1941年12月中旬。私がこの世界に来て、そろそろ三年の月日が経とうとしていた。この三年の内に変わった事はと言うと、身長が伸びた事と、ある程度の家事を任されるようになった事と、発酵食品を克服出来た事。そして使える魔法がぐんぐん増えて行った事。家事の要所要所に魔法を取り入れるのが日課となり、その日の朝食もやはり魔法による調理が施された物だった。


『どう? ダイゴロウさん。お魚の焼き加減、ばっちりでしょ?』


『あぁ』


『最近は焦げ付く前に自動で火を消せるようになったのよ? それにほら、この納豆! 今日は成功したから食べてみて!』


『……あぁ』


『納豆作りのコツがわかって来たわ。魔法で夏の温度を維持するだけじゃダメだったみたい。物を腐らせる菌を魔法で取り除いて、物を発酵させる菌だけを残しておけばよかったのよ。んー……っ! 美味しい!』


『…………あぁ』


『……』


『……』


 しかしそれらは言ってしまえば、私の身に起きた小さな変化である。この世界に降り立ってからの三年という月日は、私だけでなくダイゴロウさんも大きく変えてしまった。……正確には、ダイゴロウさんを変えたのは月日ではなく時代なのだけれど。


『……あ! ラジオをつけましょう!』


 私は静まり返った空気を入れ替えるように、ラジオの方へと手を伸ばす。ラジオを買って貰ったばかりの頃は、暇つぶしや友達付き合いの為によくラジオを聞いていた。けれど今は、こう言った気まずさを誤魔化す為の道具として使っているのが心苦しかった。それに何より……。


『や、やっぱり消すわね。ご飯は静かに食べないと』


『……』


 1941年12月初頭。日本による真珠湾への奇襲攻撃を皮切りに太平洋戦争が開戦。日本も第二次世界大戦への本格的な参戦が決まった今、ラジオから流れるニュースは戦争の話が増えている。死恐怖症を抱えるダイゴロウさんには、生き地獄にでも投げ捨てられたような気分にも等しいだろう。……と、その時。


『あ』


 誰かが玄関の扉を叩いた。その瞬間、ダイゴロウさんの額には真冬にそぐわない冷や汗がポツポツと浮かび上がる。私はダイゴロウさんの手を握りしめ、『大丈夫』とだけ言い残してから玄関先へと出向いた。


 来客の正体は、ご近所のおばさんだった。なんて事はない。冬野菜の差し入れをしに来てくれただけの事である。私はおばさんとほんの些細な世間話を交わした後、野菜のお礼を言ってダイゴロウさんの元まで戻った。


『ダイゴロウ。お野菜のお裾分けだって』


 そして例の噂に怯えるダイゴロウさんを安心させるよう、彼の背中を優しくさすってあげた。


『大丈夫よ。徴兵されるだなんてただの噂だわ。皆んな言っているもの。日本はずっと優勢だって』


 日本の戦況は優勢。だからわざわざ一般市民から徴兵するような事は決してあり得ない。戦争そのものを忌み嫌う彼にその慰めが有効なのかは定かではなかったものの、しかし私に出来る慰めなんてそのくらいしかないのである。


 太平洋戦争が勃発してから、村では男達が戦争に駆り出されるのではないかと言う噂で持ちきりだ。この村から駆り出された者はいないものの、しかし東京の知り合いは駆り出されたとか、大阪の親戚は駆り出されただの、嘘か真実かもわからない噂話が蔓延している。


 そんな噂話なんて鵜呑みにする必要はないと、私は何度もダイゴロウさんに言ってきた。実際、ラジオから流れる戦争のニュースはいつだって、日本がどれだけ戦争で活躍しているかの話題で溢れかえっていたし、チヅちゃんの話では、小学校でも毎日のように校長先生が「日本が勝つのは明らかだ。来年頃には戦争だって終わっている」と生徒達に言い聞かせているのだと言う。


 ……けれど。それでももし、仮に、万が一。一般人から徴兵されるような事が起きた場合、ダイゴロウさんは立場上、ほぼ確実に戦争へ出向く事が確定している。故に彼は、その時が明日来てもおかしくはないのだと言う不安に駆られて、日常のようにその日を恐れるようになってしまった。


 日本にはかつて徴兵法(後に兵役法に改名)が存在しており、満20歳に達した男子は徴兵の為の身体検査が義務付けられていた。身体検査の結果は、男子の健康状態によって次の5つの判定が下される事になる。


 甲種:身体が特に頑丈で屈強な者。現役兵として軍隊に即時入営する事になる。


 乙種:平均的な体の者。主に補充兵として従軍する事になるが、甲種合格者が足りない場合は抽選によって現役兵への入営が決定される。


 丙種:体格及び健康状態が平均未満な者。予備兵に配属される。


 丁種:身体障害者。徴兵は免除。


 戊種:病人。その年の徴兵は免除となるものの、翌年になればもう一度身体検査を受ける事となる。


 この内、実際の軍として働くのは甲種合格者のみであり、乙種合格者の補充兵は原則一般市民として生活を送る事になるものの、甲種合格者の現役兵が足りなくなった場合はこの補充兵が現役兵として戦地へ赴く事になるのである。


 ダイゴロウさんはまさにこの乙種合格者の補充兵である為、もしも日本軍の戦局が悪くなった際には、間違いなく戦場へと駆り出される。周りの人達は日本が優勢だと安心し切っているものの、万に一つでも戦場へ送り込まれるかも知れないという不安感は、ダイゴロウさんから心の余裕を根こそぎ奪って行くのだった。


『さ! しっかり食べて今日もお仕事頑張りましょ!』


 そんな彼に対して私に出来る事なんて、言葉で励ます以外に何もなかった。





 戦争が始まったとは言うものの、そのせいで私達の暮らしが大きく変わるかと言ったらそんな事はなかった。現代のテレビ番組で見るような、戦時中の一般市民のひもじい生活と言うのは、実は日本が戦争に参戦した直後では見受けられなかった光景なのだ。


 太平洋戦争で勝ち星を上げた日本軍は、勝利の勢いが波に乗り、誰もが戦争勝国になる事を疑いはしなかった。この時点では日本にはまだまだ余裕があり、庶民の暮らしにしても1940年にマッチと砂糖の流通に規制がかかり、配給制になった以外にはこれと言った不便さを感じる事はない。特にこの家では私という魔法使いがいる事もあり、着火程度なら魔法でお手の物であった為、マッチの規制によって私とダイゴロウさんが困る事は皆無であったと言えるだろう。


 だから日本の参戦によって私達の生活が大きく変化すると言った事は、この時点では特になくて。


 ……まぁ強いて言うなら、子ども達の間で繰り広げられるチャンバラごっこの名称が戦争ごっこになったり。双六に使われるイベントのマスが、米兵を撃ち殺す等と言った戦争に関連付く出来事が多く採用されるようになったり。後はラジオで流れるお話も戦争に関する物ばかりで、それに追従するように、ご近所さんとの世間話も戦争の話題で溢れかえるようになったくらいの物だった。そんな生活がしばらく続いたものだから。


『おかえりなさいダイゴロウ! お仕事お疲れ様! ご飯にする? お風呂にする? それとも私?』


『どこで覚えて来たんだそんなもん……』


『てぃひひっ』


 1941年も終わりを迎えようとする頃には、ダイゴロウさんもすっかりいつもの調子を取り戻してくれた……のだが。





 1942年。この年は多くの資源が規制された年となった。1月の塩の配給制から始まり、それに続いて醤油や味噌の配給制も始まった。春にはお米や木炭が配給制となり、秋には小麦粉や油も配給制となってしまう。私達のような郊外住みの国民には関係ないけれど、都市部ではガスの規制も行われたのだと言う。


 中でも特に庶民の頭を悩ませたのは、醤油や味噌の規制とほぼ同時期の1942年の2月に行われた衣類の規制である。それまではいつ、どんな物資が規制されるのかについては、庶民の暴動を最小化する目的で、当日の新聞やラジオを見るまでは庶民に知らされる事がなかったのだ。しかし衣類の規制に関しては一体どこに穴があったのか、新聞やラジオで報道されるよりも早くその情報が漏れてしまったのである。


 その為。


『ダイゴロウさん早く早く! もうなくなっちゃうわよ!』


『ま、待ってくれカドリー! 俺から離れるな!』


 衣類が規制される前に買い占めねばと、都内の百貨店や服屋に庶民が殺到。戦場よりも過酷な買い占め戦争が、都内のあちこちで勃発する事となった。


『買えなかったわ……』


『……』


『ダイゴロウ……。これから服が破れたらどうなっちゃうの? ずっとボロキレのまま……?』


『それは……。うーん……。魔法で服を作ったりとかは出来ないよな……?』


『無理よ。無から何かを作るのはとても難しいの。作れたとしても蟻さんが着るような小さな服が精一杯だわ。せめて素材があれば大丈夫だと思うけど』


『素材か……。反物どころか絹や糸も買い占められちまったからなぁ……』


 服の買い占めに失敗した東京からの帰り道。私達は互いにため息を漏らし合いながら家までの田舎道を、トボトボとオート三輪を走らせた。


『それにしても困ったもんだ。塩や砂糖に続いて衣類も配給制か』


『……』


『きっと近いうちに米や小麦粉、木炭や油も配給制になるんだろうな。一体全体これからの世の中、どうなっちまうのやら』


『……』


『どうしたカドリー? そんな思い詰めた顔をして。大丈夫さ、一応生きるのに十分な量を貰えてはいるんだ。贅沢が出来なくなるだけで、これだけあれば少なくともひもじい思いをする事はない』


『……それは私がいなかったらでしょ?』


『……』


『私、知っているわ。私には戸籍がないから、配給してもらえるご飯はダイゴロウさんの分しかないって。だからダイゴロウ、最近は前よりご飯を食べなくなったのよね?』


『なんだそんな事。違うよ、勘違いだ。人は歳を取ると食欲が落ちるもんなんだよ』


『嘘よ。ダイゴロウは力仕事をしているからお腹だって沢山空いているはずだわ。ダイゴロウの倍も生きている米田のお爺さんだって、もりもりご飯を食べてるじゃない』


『それは……』


『……あのね、ダイゴロウ。私も髪を短くしようと思うの。この髪のせいでいつも私ばかり長風呂だし、そのせいで資源の無駄遣いになったら』


 と、その時。オート三輪のハンドルから片手を離したダイゴロウさんが、私の言葉を遮るように私の唇を摘み上げた。


『お前はこの世界の住人じゃないんだ。こっちの世界に合わせなくていい。お前は本当ならもっと豊かな世界で暮らす事も出来たんだ。それなのに、死にたくない俺の我儘に付き合わせちまった。だから俺には、自分が苦労してでもお前に楽をさせなきゃいけない義務と責任がある。……いや、そう言うのじゃねえな。義務も責任もなかったとしても、可愛い子どもに過酷な思いはさせたくないよ』


『……』


『それにな。俺はお前のその髪が気に入っているんだ。皆んな髪を短くしている今の時代、中々見る事の出来ない綺麗な髪じゃないか。俺のお気に入りを粗末にしてやんないでくれ』


『……はーい』


 そうやってダイゴロウさんが笑っていられたのも、その年が最後だったのかも知れない。





 1943年。


『……』


 ダイゴロウさんの持ち帰った物資を見て、肩を落とす。配給の物資が、去年に比べて目に見える形で粗末な物へと成り果てていたからである。それはお世辞にもダイゴロウさんのような成人男性が健康的に生きていける程の量とは言えず、そんな雀の涙しかない食糧で私まで養わないといけないとなると……。


 畑と田んぼに囲まれた農村である。戦後間も無くの頃は自給自足も出来ていた為、チヅちゃん達もお米のたっぷり入った日の丸弁当を持って学校へ行ったと語っていたのに。


 私は家の蔵に貯蔵してあったたっぷりのお野菜とお米に目を向ける。その時、一つの車のエンジン音が我が家へと近づいて来た。あの時代、あれだけ立派なエンジン音を轟かせるような大層な乗り物に乗れた人なんて、よっぽどの大金持ちか、或いは……。


『カドリー。供出の時間だ』


『……はーい』


 私はダイゴロウさんが連れて来た、5人の兵隊さん達に蔵の中の食糧を差し出した。


 供出制度。戦場で戦う兵隊さんの為に、農家で育てたお米や野菜を、政府が強制的に安値で買い叩いていく制度である。この制度が始まったばかりの頃は、農家が食べる為の食糧にまでは政府の手が及ぶ事はなかった。しかし戦争が始まってからしばらくが経った今、農家の分の食糧にまで政府の目が入るようになる。今日の分を食べた後は、果たして明日も同じ物が食べられるのかと不安が過ぎる毎日だ。


『ご協力感謝致します。皆様が汗水垂らして育てた貴重な食糧、この言葉にかけて決して無駄には致しません』


 ダイゴロウさんが育てた食糧を車の荷台へ積め終えた後、一人の軍人が一枚の張り紙を私達に差し出した。それは。


「【感謝の言葉】


 一。お粥を啜って供出して戴いたお米です。農家の皆さん有難うございます。


 二。炎熱極寒の中にも強く戦ひ抜いて得られたお米です。誓って粗末に致しません。


 三。腹一杯は勿体ない。誓って節米食ひ延し致します。有難うございます。」


 という、今もお腹いっぱいご飯を食べているであろうどこかのお偉いさんからのお手紙だった。


 兵隊さん達はその張り紙を家の壁に貼り付けた後、もう一度深い礼をしてこの村を去ろうとしたのだけれど。


『待って!』


 私は思わず、そんな彼らを引き止めてしまう。私達の食糧を根こそぎ奪って行く彼らに、それまでの不満と不安をこれでもかとばかりにぶつけてしまったのだ。


『ねぇ、兵隊さん。周りの人は皆んな日本が勝ってるって言ってるけど、それって本当なの? 私、もうずっとお腹いっぱい食べられてないわ。昨日なんてお米が少ししか入っていない野草の雑炊だったの。本当に日本が勝ってるなら何でこんなのしか食べられないの? 戦争って本当に終わ』


 でも、私の不満は最後まで口から吐き出される事はなかった。鬼の形相を浮かべた兵隊さんが、何倍もの体格差が開いた私に敵意を向けて来て、萎縮してしまったのだ。


『お嬢ちゃん。言霊って知っているかい?』


『……』


『口から出た言葉には力が宿って、本当にそのような事が起きると言われているんだ。絶対に自分が勝つと思って喧嘩をしたって本当に勝てるとは限らない。けど、絶対に自分が負けると思った喧嘩は、相手がどんなに弱かろうと絶対に勝てなくなる』


『……』


『わかったら二度とそんな馬鹿な事を口にするなァーッ!』


 その圧倒的な威圧感に気圧され、私はその場でへこたれてしまった。足から力が抜け、尻餅をつき、貴重な衣服を土で汚してしまう。……いや、汚すどころか地面の枝に引っ掛かって破れてしまった。


『カドリー!』


 ダイゴロウさんが駆けつけ、腰を抜かした私の体を抱き抱えた。そんな私達を見ながら、兵隊さん達は静かにこの村を去って行った。


『……ダイゴロウ。ごめんなさい。服が……』


『え。……あぁ』


 破れた服の切れ端を見ながら、ダイゴロウさんが眉を顰める。衣類の流通が規制された事で、破れる度につぎはぎにつぎはぎを重ねて来たオンボロの衣服である。魔法での修繕も、いよいよ修理の為の絹や糸が不足して限界が来ていた。


 ダイゴロウさんは困った顔で私の服を見ていたものの、しかしいよいよ追い詰められた事で一つの決心に踏み切る覚悟が出来たのだろう。


『しょうがない。闇市に行こう』


 不足した物品を手に入れる為に、闇市が横行していた東京の下町に行こうと思い立つ。


『闇市?』


『お国の目を盗んで、色んな物品を法外な値段で取引しあってる場所があるんだ。聞く所によると、こんなご時世じゃお金の価値がなくなって、物々交換によるやり取りが主流らしい。物々交換なら……そうだな。今うちにある物でも、なんとかなるかも知れない』


 こうして私達は闇市での交換品をかき集めるべく、家の中にある様々な物を物色する事となった。


 政府の目を逃れて隠した乾物等の保存食。木材として使う事の出来る木製の家具。また、軍事開発に必要な金属類が不足している事から、都会では金属類が政府に押収されているとの事で、日曜大工や台所道具の一部なんかも物品としての価値が高いとみなされた。それと、紙もやはり貴重な物資として価値がある為、ダイゴロウさんの本も交換用に沢山かき集められて。


『……』


【何よ】


『あのね。どれだけ燃やしても燃えない魔法の紙だって言えば、ゼルルも高く売れるんじゃないかと思って』


【あらそう。殺すわよ】


 勿論それは冗談ではあるが、しかし日が暮れるまで家中の不用品をかき集めたおかげで、闇市でそこそこの成果が期待出来るだけの資本が集まった。


『いやー、探せば使わないものなんていくらでも掘り出せるもんだな。これなら明日、しばらく生活に困らないだけの物品と交換出来るんじゃないか?』


『本当?』


『あぁ。そうだなぁ、とりあえずカドリーの服は真っ先に交換するとして、次に大事なのはやっぱり食糧だな。大豆をいっぱい交換しよう。貴重なタンパク質だ。これがないと、最悪バッタを捕まえて食べる事になるかも知れないぞ?』


『えー! 嫌よそんなの! ダイゴロウ、絶対大豆をいっぱい手に入れるのよ!? バッタなんか食べさせたら私、ダイゴロウの事嫌いになるんだから!』


『あっはっはっ、そりゃ大変だ。明日は頑張らないとな』


 とても朝のような出来事があった後の空気とは思えなかった。家中の不用品をかき集めた達成感が、妙な心地よさを私達を包んでくれたのかも知れない。明日を生き抜く為の闇市だと言うのに、私達の気分は都会の祭りに行く観光客のような浮かれようであった。こんなに穏やかな気持ちになれたのは本当に久しぶりで、明日の闇市が楽しみで楽しみで仕方がなくて。


 ……なのに。





『……』


 次の日。私達は闇市に行く事を中止せざるを得なくなった。


『ダイゴロウさん。おめでとうございます』


 朝食を終えた私達の元に、一人の来客が訪れたのだ。


『どうかお国の為に、全身全霊尽力することを願います』


 その客人は、そう言ってダイゴロウさんに赤い封筒を差し出した。

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