41話 最大の過ち
ぼっこぼこ!でっこぼこ!はい!ぼっこぼこ!でっこぼこ!
ウルフは目的地に向かいながらステータスの確認をした。ステータスを開くと、脳内に声が響き渡る。
『最適化を発動します』
『マイワールドとホーリーワールドが統合され、聖魔領域を取得しました』
聖魔領域とは、異世界に設置した扉も使えるようになるスキルのようだ。マイワールドは魔人や魔王が希に覚えるスキルだったのでこのようなスキル名となった。もちろん、ウルフはそんなことは知らない。
周りより一際デカいビルに近付くと、屋上から羊頭の魔人がウルフに向かって火魔法でつくった火球を投げて来た。即興でつくったものらしく、魔力がそれほどこもってはいない。
魔力がどれだけの量込められていたとしても、ウルフは魔法無効を持っているので、効くはずもない。体に当たったが、当たったあとに起こった煙以外に害はなかった。
「な!?無傷だと!?そんなはずはない、被弾した直後、瞬時に再生……いや、回復したのか?」
無傷のまま着地すると羊頭の魔人はそう言った。羊頭の魔人に力の違いをわからせるつもりだったが、魔力の反応などを辿らずに予想を立てて行くのを見ると、無駄な様だ。
「ふはははは!!我は眷属のステータスをそのまま自分のステータスに上乗せするというスキルを持っている!眷属は強制眷属化で今も尚、増え続けている!!その我にかなうものなどいない!我は魔王バフォメットなりいい!!」
「長々と説明する奴は大体が小物だよな」
ウルフは魔王バフォメットに近寄っていく。魔王バフォメットは身構えて叫ぶ。
「ふはははは!!!我に挑むか!!!それもよい!さあ!!!かかってくるが―――むむ?」
魔王バフォメットは突如として南を向いて目を閉じる。眷属達の状況を確認しているのだ。ウルフはそれに構わず、歩み寄る。
「我の眷属の中でも強力な四天王達が二人もやられている?どういうことだ!?んん!!転移!!」
ウルフが掌から魔王バフォメットが出した火球の倍の大きさの火球を作り出してぶつけようとした瞬間。目の前から転移魔法を使い魔王バフォメットは消えた。
消えた魔王バフォメットの反応は、この場所に来る時に通った場所から感じられた。ウルフが来た道を戻ろうとすると、帽子をかぶって刀を持った男が現れた。
「どうも!異能力研究会の者っス!今はあの魔人の邪魔をしてもらうわけには行かないっスよ!!」
刀の男は上段に構え、ウルフに斬りかかる。直後には甲高い金属音が響き渡る。刀を受け止めたのは―――大勇者、斎藤優人である。ヒューマ聖国にいた時から付けているマントをたなびかせ、優人は神剣で刀を受け止めていた。
「何だかよくわかんねえけど、ここは任せろ。こいつは俺が引き受ける」
ウルフが飛んでいくのを背後に感じながら目の前の刀の男に語りかける。
「何が目的だ?なんで邪魔をする」
「それは今の段階では言えないっス!……。これは、我々異能力研究会の最重要機密っス!それにしても……あなた一体何者っスか?僕の一撃を止めるとは!ただ者じゃないっス!」
「俺は……ただの通りすがりの大勇者だ」
それを聞くと二人は数回打ち合い距離を取り、また数回打ち合い距離を取る。それを繰り返した。魔力を高め、二人はぶつかった。
場所は代わって、ウルフは魔王バフォメットの元に着いていた。ウルフの視界に入ったのは、満身創痍の天空寺新とそれを見下ろして悠々と立つ魔王バフォメットの姿であった。魔王バフォメットは手をかざして、火球を作り出した。
「我の四天王を二人も殺して!!我のステータスを下げおってぇええ!許さんぞ貴様ぁぁあああああ!!」
バフォメットの手から新に火球が飛ぶ。が、その火球は新に当たるか当たらないかというところで霧散し、消え去った。それは、ウルフの魔力支配によるものであった。クラスメイト達は危険を感じて新を担いで魔物達の間を通り、逃げ始めていた。
バフォメットや新、その場にいた全ての者が謎の圧力を受けて冷や汗をかいていた。それは、ウルフの体から溢れる少量の魔力。少量というのは、ウルフの魔力総量と比べると、という意味であり、その場にいた者達にとっては、恐ろしいものだったのである。
「ふ、ふはははは!!その魔力量なら我はもうすぐ超えるぞ!?ふはははは!!ナメるなよ!?人間如きがぁぁぁあああああ!!」
「人間如き……?お前はバカか?………それにな…友達をそんなにされて俺は怒っているんだ」
「ふはははは!!そんなことは知らぬわ!!こやつが我の四天王を殺したのだ!!当然の報いであろう!!しかし、我に楯突いた貴様から葬ってくれよう!!!………はぁぁあああああああ!!」
新達が既に逃げていることにも気付かずに、バフォメットは手を上げて掌に自身の魔力を収束させて、特大の火球を生み出す。
それを見てウルフも同じように手を上げる。そして魔力を収束させていく。もちろん、魔力支配で周囲の魔力を集めて。
「な……!?バ、バカな!?我のフレアボールが吸収されているだとおお!?そ、それに……なんだその出鱈目な魔力の塊は!!!こ、この尋常ではない禍々しい魔力は………まさか!!」
「魔人如きがナメるな。お前にふさわしい技をくれてやろう………全魔力解放!」
「な……なんだとぉぉおお!?ま、まさか!!まさか貴様はぁぁぁああああああ!!!」
ウルフの掌にバフォメットの火球、空気中を漂う魔力、そして、ウルフ自身の魔力を集め、それは一秒毎に大きさを増していた。それが縮まり、手のひらサイズになった。
「魔王の振りをした魔人よ。真の魔王の力を思い知れ!!!!!超圧縮魔法!!!」
バフォメットはもはや話を聞かずに背を向けて逃げ出した。自身のミスを後悔しながら、ガムシャラにコケながら走り出していた。そんなバフォメットの前にウルフは瞬時に移動し………
「マジックバーストォォオオオオオオオ!!!!!」
バフォメットに向かってそれを解放した。それはバフォメットはおろか、その方向にいた、魔物と山を消し飛ばし、大きな傷跡を残した。それを見てウルフは言った。
「あ……この方向……先輩がいるんだった……。キレてて忘れてた……」
近くにいた魔物達は既に逃げ出した後だった。




