第44話. 廃棄処分
栄華の極みから、奈落の底へ。その転落に要した時間は、わずか10分でした。
権力という名のスポットライトが消えた瞬間、残されたのは冷え切った事務所と、ただの「人間」に戻ってしまった怪物の姿。
師であり宿敵であったチェ・ジンヒョクの終焉。
そして、その空席を狙う新たな誘い。
第44話、お届けします。
[D-80 / 02:00:00]
汝矣島の選挙キャンプ事務所の熱気は、わずか10分足らずで急激に冷え込んでいった。それは単純な退勤などではなく、巨大な機械が「シャットダウン(Shutdown)」される過程そのものだった。
「申し訳ありません、候補。委員長側からの保安撤収命令です」
真っ先に警護チーム長が無線機を切り、頭を下げた。
チェ・ジンヒョクが当惑して彼の腕を掴んだが、男たちは機械的にその手を振り払い、扉の向こうへと消えていった。
チェ・ジンヒョクの最初の反応は、当惑だった。
「いや……違う。まだスケジュールは終わっていない! どこへ行くんだ!」
続いて広報チームと戦略チームの面々が、音もなく動き出した。
彼らはチェ・ジンヒョクと目を合わせることすらなく、外付けハードディスクや書類の束をシュレッダーに放り込み、あるいは鞄に詰め込んだ。
「何をしている! それは俺の選挙資料だぞ!」
チェ・ジンヒョクの怒号に返ってきたのは、冷淡な無視だった。続いてチーム員たちは、約束でもしていたかのように法人カードをデスクの上に置いて退場した。
彼の感情は、怒りで燃え上がった。
「この恩知らずな奴らが! 俺を誰だと思っているんだ!」
秘書室長のパク室長が、最後に書類鞄を閉じた。
「候補、法人口座が凍結されました。それから、事務所の賃貸契約も解除の通知が届きました。委員長から届いたメッセージも『苦労したな』、それだけです」
パク室長までもが部屋を出ていくと、チェ・ジンヒョクの怒りは瞬時に恐怖へと変わった。
「パク室長! 待て! 委員長には俺が直接説明すると伝えてくれ! パク室長!」
[空っぽの事務所]
最後まで残り、床を掃いていた清掃員でさえ、チェ・ジンヒョクを幽霊か何かのように見なして通り過ぎ、照明を消した。
「まだ人がいるんだ! 電気を点けろ!」
暗闇の中に一人取り残されたチェ・ジンヒョクは、ようやく悟った。
自分が座っていた席は大統領候補の椅子などではなく、いつでも電源を切ることのできる展示用のショーケースだったのだということを。
チェ・ジンヒョクは震える手で個人のスマートフォンを探し、ユンジェに電話をかけた。今や、彼に残された唯一の回線だった。
「ユンジェ……お前が委員長を騙したんだろう? あの偽造書類で! 委員長が俺をこんなふうに捨てるはずがない。これは何かの間違いだ!」
消毒液のように無機質なユンジェの声が聞こえてきた。
「いいや、チェ・ジンヒョク。これは品質管理の結果に過ぎない。お前は昨日、自分の手で『不良品』の判定スタンプを押したんだ」
「……望みは何だ? 金か? 裏金口座のパスワードをすべてやる。スイス、シンガポール……お前が想像もできない額だ。頼む、委員長に誤解だと一言だけ言ってくれ」
「勘違いするな。その口座の主はお前ではなく『システム』だ。管理権限を剥奪された瞬間、お前は一文無しの非正規雇用者に過ぎない」
「この野郎……ああ、いいだろう、道連れにしてやる! 俺が持っているASのリスト、南山Pの名簿! これをすべてぶちまけたら、お前も、お前の家族も無事で済むと思うか?」
「やってみろ。だがお前の通信回線はすでに遮断された。お前が持っていたデータは、昨日お前の猟犬たちが自らシュレッダーにかけた。お前にはもう、何の武器も残っていない」
チェ・ジンヒョクの声から、最後に残ったプライドさえも崩れ落ちた。
「ユンジェ……俺たちは検察の先輩後輩じゃないか。一度だけ助けてくれ。な? 言うことは何でも聞く。キム・ソンシクの老いぼれを殺せと言うなら殺してやる。頼む……逮捕されたらおしまいなんだ」
ユンジェは答えの代わりに、時計を確認した。
「20年前、お前はキム・ソンシクの面接に合格した。そして今日、彼がお前を不良品だと判定した。俺がしたのは……その判定を早めただけだ」
(沈黙)
ツッ――。電話が切れた。
廊下の先から、靴の踵が床を叩く重々しい音が聞こえてきた。
一人ではなかった。
少なくとも五人。
一定の歩幅とリズム。獲物を包囲する猟犬たちの足音だった。
バキィィン!
執務室の扉が開かれ、冷たい廊下の光が暗闇にうずくまるチェ・ジンヒョクを照らし出した。
紺色の書類封筒を手にした検察の捜査官たちが、彼を見下ろしていた。
「チェ・ジンヒョク氏。資本市場法違反および贈賄、そして1998年の性暴力事件における証拠隠滅教唆の容疑で緊急逮捕します」
捜査官がミランダ警告を告げている間、チェ・ジンヒョクは抵抗しなかった。いや、できなかった。
彼の腕が後ろに捻り上げられ、冷たい金属の手錠が手首に食い込んだ。
「手錠をかけろ」
手錠が締められる刹那、捜査官の一人がチェ・ジンヒョクの右手をつぶさに観察した。その指は、もはや震えていなかった。
恐怖が彼の神経系すべてを麻痺させ、ついに彼が完璧な「無生物」、すなわち「廃棄物」となったことを証明していた。
[D-80 / 03:00:00]
[速報]チェ・ジンヒョク候補、緊急逮捕および候補辞退を電撃発表……大韓民国の政治史上、類を見ない没落。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
絶対的な権力を持っていたはずの男が、システムのスイッチ一つで「廃棄物」と化す過程。
ユンジェが冷徹に告げた「非正規雇用者」という言葉は、チェ・ジンヒョクが築いてきた虚構の城を最も残酷に象徴する一言でした。
しかし、怪物を倒した後に現れたのは、さらに巨大な支配者、キム・ソンシク。
彼はユンジェという刃の鋭さに惚れ込み、自分の側に引き込もうと画策します。
次回の第45話。
敵の心臓部で提案される「管理者の椅子」。
ユンジェはこの究極の選択に、どう答えるのでしょうか。
それでは、また明日午前7時にお会いしましょう。




