166 最後の仕事
ここは女神軍が攻めている町跡から1キロ以上離れた高台の上……
「「「「……」」」」
町跡の外壁の近くで勇者パーティが倒れたのだから、誰1人、口を開こうとしなかった。
「ハッ! や、やっちまった……」
一番最初に声を出したのはシモン。勇者パーティを全員撃ち殺したのだから、顔が真っ青になった。
「おい……この始末、どうするんじゃ……」
世界の希望が失われたのだ。ヤコビーネも声が低く小さくなっている。
「す、すみません……怒りで我を忘れて……」
「それはいまはいい! このままでは作戦失敗じゃ! 多くの死者を出してしまうぞ!!」
シモンは勇者パーティを殺したことに謝罪したが、ヤコビーネが怒鳴って現実を告げると我に返る。
「そ、そうだな……君、こう伝えてくれ。作戦中止。蒼き群雄が重傷を負った。同じ場所で勇者パーティ死亡。蒼き群雄の救出部隊を最短距離で派遣してくれ。援護は国王直属秘密部隊所属、プーシーユーが受け持つ。誰が勇者パーティを殺したかは伏せておいてくれ。覚えきれたか?」
「は、はい。メモとったさかい……」
「責任はあとで俺が命で払うから、絶対に余計なことを言わないでくれ。頼んだぞ」
「はい……」
伝令エルフに頼み事をすると、シモンはプックとユーチェに頭を下げる。
「勝手をしてすまない。これで最後になると思うけど、パーティメンバーとして、最後まで付き合ってくれ」
するとプックとユーチェは顔を見合わせてから笑顔を見せる。
「なに言うてまんねん。その武器作ったの、あーしでっせ? シモンはんの罪は、あーしの罪でもある。地獄まで付き合ってやるさかいにな」
「そうどす。なんでウチの目を使わず罪を犯しておるんどすか~。シモンさんのためやったら、勇者だろうといくらでも手伝ったんどすよ? ウチも地獄までお供しますどす~」
「プック……ユーチェ……」
こんな大罪人について来てくれるなんてとシモンの目が潤む。涙が今にも零れ落ちそうにもなったが、シモンは目を擦って弾き飛ばした。
「よし! まずは東側の魔獣を一掃する! 行くぞプーシーユー!!」
「「お~!!」」
こうしてプーシーユーは、いつもよりも覚悟を決めた顔で拳を振り上げる。そんなプーシーユーを見たヤコビーネは、深く頷いたあとに笑みを浮かべるのであった……
シモンが狙うのは、蒼き群雄が倒れている東側の外壁。爆発があったから、いつ魔獣が蒼き群雄に襲い掛かるかわならないからだ。
ユーチェの目を借りれば、1キロ以上先の標的も一発。最後の1体は、シモン1人で撃ってみたけどハズレ。ユーチェは鼻高々だ。
「あっれ~? また外れた」
「やっぱりシモンさんにはウチがおらなアカンねんな~」
「マグレだったのか? もうアレ、倒しておこう」
「は~い」
勇者パーティ相手に5回もマグレが起こるなんて信じられない出来事。
事実は、あの時のシモンは集中力がマックス以上になったゾーンに入っていたから。今までの経験からユーチェならここを狙うと予想して引き金を引くと、狙い通りの場所に着弾したのだ。
「次は邪神の使いを狙うぞ」
「はいは~い」
「プックはいつでも撃てるようにしておいてくれ」
「もう準備万端やで~」
次の狙いは南側の外壁。プーシーユーからは、壁は斜めに見えて魔獣の数も多いから、1体を狙うには難しい場所だ。
「よしっ! 2匹目撃破~」
「さすがシモンさ~ん」
「ようあんなん当てれるな」
でも、狙撃の変態シモンだ。どちらも一発で撃沈だ。
「そろそろ救出部隊が動くぞ。向こうは信じていいのかと心配してるみたいじゃ」
「あ、はい。目にもの見せてやると言っておいてくれ。プック、出番だ!」
「やったるで~~~!!」
ヤコビーネ伝いに伝令エルフの以心伝心が終わるのを待ってから、ガトリングガン掃射。シモンが狙いを定めてプックが支えると、弾丸は外壁の上に雨あられだ。
「これこれ~。きんもちいい~~~!」
「プックは虐殺好きだよな……」
「うっひゃっひゃっひゃっひゃ」
「聞こえているのかな~?」
外壁の上では魔獣がミンチに変わっているので、シモンは引き気味。プックが笑っているから全員ドン引きだ。
「救出部隊、出たどす! けど、何をやってるか聞いてます!!」
「う~ん……保留で」
「そんなのできまへんよ~」
「無視しておけ。また連絡が来たら、鮮血女王が何かしてると言っておけばよい」
伝令エルフの下に本部から連絡が来たけど、無視する指示を出すシモンとヤコビーネ。言いたくないとうより、説明が面倒くさいんだろうね。
そうして女神軍が後退するなか、プーシーユーがガトリングガンをブッ放していたら弾が尽き、シモンとユーチェの狙撃に切り替えて撃っていたら、望遠鏡を覗いていたヤコビーネが声を掛ける。
「蒼き群雄は戦闘区域を離れたぞ」
「容体とかは……わからないですよね」
「いや、少し動いていたから命には別状はないじゃろう」
「本当ですか!? よかった~~~」
シモンは安堵からスナイパーライフルの引き金から指を外す。そして伝令エルフに本部からの指示を仰いだら、再びスナイパーライフルを構えて撃ち出した。
「もう全員引いておる。攻撃は必要ないぞ」
「いや。これで最後かもしれないから、できるだけ数を減らしておく」
「……好きにしろ」
世界の希望を亡き者にしてしまったのだ。シモンは罪悪感から、本部から出頭命令が来るまでスナイパーライフルを手放さないのであった。




