165 世界の希望2
高台からプーシーユーが蒼き群雄を集中的に見ていたら、見習い騎士から勇者パーティが消えたとの報告。
いくら蒼き群雄を見たくとも、緊急事態だ。プーシーユーは全員、勇者パーティがいた辺りにスコープや双眼鏡を向けた。
「マジでいない……消えたってのは、人に隠れてしまったから見失ったのか?」
「いえ、言葉通りです。全員が固まったら、フッと……な?」
見習い騎士は全員同じ感想を持っていたから、シモンの答えはひとつに絞れる。
「テレポートだ……」
そう、勇者パーティは瞬間移動したのだ。
「なんでテレポート? 敵前逃亡かいな??」
「わからない……けど、嫌な予感がする。探せ! 戦場のどこかにいるかもしれない!!」
ただ、プックの質問には答えが出ない。なので国王直属秘密部隊は総動員して勇者パーティを探す。
「おらんな~」
「やっぱり怖くなって逃げたんちゃいます?」
「アイツらならやり兼ねないけど……あ、君、勇者パーティが消えたと伝えてくれ。注意喚起も忘れるな」
「はいっ!」
伝令エルフに報告を任せたら、シモンはまた勇者パーティ捜索に戻る。戦場を見ると、勇者パーティがいた辺りの兵士は混乱しているような動きをしているから、シモンは「報告はいらなかったかも?」と思っていた矢先……
「おい……東側が光ったぞ」
ふと東側の外壁を見たヤコビーネが不穏な声を出した。
「カティンカかな~?」
でも、蒼き群雄が外壁を登ろうとしているのかと、シモンの顔が緩む。
「上じゃない! 下じゃ! 蒼き群雄が何者かの襲撃を受けておる!!」
「……へ??」
だが、まったくの想定外の出来事。ヤコビーネに怒鳴られたシモンはとぼけた顔になったが、みるみる青ざめる。
「ウ、ウソだろ……アールト、カティンカ……セシル、ダフネ……俺の後釜……」
そしてスコープで重症を負った蒼き群雄を1人ずつ確認していた。プックは最後の1人についてツッコミたくてウズウズしてた。
「クソッ! 誰がやったんだ! ブッ殺してやる!!」
次に湧いて来た感情は怒り。シモンはスナイパーライフルを構えて蒼き群雄の近くを探していた。
「チッ……勇者じゃ」
「勇者だと!?」
「あやつらの狙いは蒼き群雄だったみたいじゃ」
一番最初に犯人を発見したのはヤコビーネ。勇者パーティが消えた理由は、1キロ離れた場所で発覚したことになる。
「な、なんで蒼き群雄を狙うんだよ! 戦闘中だぞ!!」
「やられたことの仕返しじゃろうな。蒼き群雄が単独行動するのを待っていたんじゃろう」
「ふっざけやがって……」
シモンの怒りはマックス。その時、プックとユーチェの目にも、最悪の事態が映った。
「アカン! 勇者のヤツ、剣抜いたで!!」
「蒼き群雄さ~ん。逃げて~~~!!」
「アールト!?」
蒼き群雄、絶体絶命。勇者パーティの魔の手が迫るのであった……
時は少し戻り、勇者パーティが戦場から消える前。蒼き群雄は岩陰に隠れて、町跡への侵入経路を探していた。
「ダメね。外壁には見張りがいるわ」
カティンカは風魔法による探知で、外壁の上にいる魔獣の位置を全て伝える。
「まぁ予想通りだね」
「どうする? やっちゃう??」
「そのいつもシモンさんとやっていたやり取り、やらなきゃダメ??」
「うっさいわね~。わかってるわよ。待機でしょ」
シモンとのやり取りとは、慎重にしないといけない場面でカティンカがおちゃらけてシモンに止められて喧嘩するというノリだ。
シモンが近くにいると聞いたカティンカは昔のノリがついつい口から出てしまったので、アールトに言われて顔が赤くなったね。皆にもクスクス笑われてるし。
「それにしても、このまま待機も暇よね」
「暇でも待たないと。いや、ひょっとしたら、シモンさんがなんとかしてくれるかも?」
「シモンさんが? 間に合ったの??」
「早かったら着いてるはずだよ。ここからは見えないけど、南東辺りの高台にね」
カティンカが照れ隠しに喋ると、アールトの答えにセシルたちは一斉に南東を見たけど、うっすらと高台が見える程度なので人影すら発見できなかった。
「1キロ以上離れてるのよね? シモンさん、どんな攻撃手段を手に入れたんだろう?」
「それは私も気になる。こないだの要塞の時も一方的って聞いた」
「あの鉄の塊だとわかるけど、それをどう使っているかは想像できないね」
セシルもダフネもシモンの謎を考えると、蒼き群雄の口数が増える。ややゾーイだけがついて行けないので話題を探していた。
「そのシモンさんが間に合っていなかったらどうする?」
「その時はその時だよ。一斉攻撃に合わせて飛び込む。それまではシモンさんに期待しよう。みんな、外壁の上を注意して見てて」
「「「「うん」」」」
元々の作戦は、時間を掛けて戦っている内に蒼き群雄が北東に迂回して内部に潜入する。見張りが多い場合は、女神軍が一斉攻撃をしている混乱に乗じて蒼き群雄が潜入するとなっていたからぬかりがない。
他にも不測の事態の対策をいくつも練ってはいたが、急に真後ろが爆発しては蒼き群雄は避けることもできなかった……
「グッ……な、何が……」
一瞬の出来事。蒼き群雄は爆発で吹き飛ばされ、アールトも一瞬意識が飛んだが、なんとか体を起こした。
「おお~。全員生きてる」
「ギャハハ。言った通りだろ? 殺すつもりでやってちょうどいいって」
「「「「「ギャハハハハハ」」」」」
聞き覚えのある声。アールトは岩に背中を預けて、声がした方向に体を向けた。
「ガハッ……なんであなたたちがここに……」
それは勇者パーティ。昨夜テントを抜け出していたのは、この場所の近くにテレポートができるように印を付けていたのだ。
その勇者パーティは下品な笑い方をしながら、重傷で動けない蒼き群雄にゆっくりと近付いて来た。
「ああ~? なんつった? ま、聞きたいことはこういうことだろ? 俺たちをナメた代償を払ってもらいに来たぞ。お前たちS級パーティは個別に闇討ちしてやる。ギャハハハハハ」
ややアールトの質問とは違ったが、アールトはそんなことだろうと睨んだ。
「こんなことしでかして、どうなるかわかっているのですか?」
「わかってるぞ~? お前たち全員死ぬだけだ。魔獣のエサにしてやれば、完全犯罪成立だ」
「その前に、女は全員お前の目の前で犯してやるからな」
「俺、あの巨乳、も~らいっと」
「おい、そいつはジャンケンで俺だと決まっただろ」
「喧嘩するなよ。穴はみっつもあるんだからな」
「「「「「ギャハハハハハ」」」」」
アールトが怒りの目を向けても、勇者パーティは下品な笑いしかしない。
「仲間に手を出すな……」
「はあ~? なんて言ったんでちゅか~??」
「仲間に手を出すなと言ったんだクソ野郎!!」
「ギャハハ。強がっちゃって~。僕ちゃん、そんなこと言っても怖くないでちゅよ~?」
「笑っていられるのは今の内だ。シモンさんが後ろから狙っているぞ」
「「「「「シモン!?」」」」」
だが、アールトがシモンの名を出すと明らかに焦りを見せる勇者パーティ。もちろんアールトはこの機を逃さない。
「プーシーユーを召集している。目的は勇者パーティを見張らせることだ」
「お、おい。ヤバくないか?」
「これが本当なら、俺たちはまた撃たれるぞ?」
これが滅多撃ちにされた賢者トモヤと聖者キヨトには効果覿面。だが、勇者ユウキはニヤリと笑った。
「何ビビってんだ。まだ攻撃もされてねぇだろ? ブラフに決まってる。それにどこの誰かもわからないパーティなんか助けるか? 戦争中だぞ? いくらアイツが馬鹿でも、俺たちを残す選択をするはずだ」
「「確かに……」」
ユウキの発言が真っ当に聞こえたトモヤとユウキは下品な顔が戻った。
「僕たちはどこの誰かじゃない。シモンさんの元パーティメンバーだ」
「は? シモンのヤツ、元蒼き群雄だと??」
「お、おい。やっぱりヤバイって」
「いやいや、アイツは追放されたとか言ってただろ? 未練はないはずだ」
「でも、こいつが呼び寄せたんだろ?」
勇者パーティは突然揉め出したが、ユウキは剣を抜いた。
「元パーティメンバー、結構じゃねぇか! 女を人質にすれば、シモンも手を出せなくなる!!」
「「「「おお~」」」」
「男はいらね。さっさと殺して、女を森に連れ込むぞ」
「「「「おう!」」」」
これが悪者の最適解。アールトも仲間が陵辱される姿が浮かび、泣きそうな顔になった。
「シモンさ~~~ん! 助けて~~~!!」
「ギャハハ。シモンさ~ん。助けて~だって。ギャハハハハハ」
そしてついつい助けを求めてしまうと、ユウキに嘲笑われる。その時、ユウキに違和感が襲った。
「ん? お前たち、どうした??」
仲間の笑い声がひとつも聞こえないのだ。
「来てくれた……シモンさんが来てくれた……」
そのかわりアールトが大粒の涙を落とした。ユウキもまさかと思って周りを見ると誰もいない。視線を下に落とすと、4人の男の頭から血が流れている姿……
「シモン! てめえ! 俺様は世界の希望だぞ! シモーーーー……」
さらには世界の希望、勇者ユウキまで頭を撃ち抜かれたのであった……




