159 作戦終了
女神軍が続々と要塞に突入して行くなか、プーシーユーは休憩。念の為、見習い騎士に要塞から逃げ出す者はいないかを見張らせている。
シモンは休みながらもスナイパーライフルでチラチラ様子を覗き見。中の状況はわからないから、たまに外壁の上に現れる魔獣をユーチェと一緒に倒していた。
「終わり……かな?」
「うむ。我々の勝利じゃ」
「「わ~」」
「「「「「おおおお~!」」」」」
女神軍の兵士がシンボルの旗を外壁にたなびかせると、シモンたちはふたつに分かれた反応。プーシーユーとヤコビーネは喜びは小さめ。見習い騎士はこれが初陣なのか、大喜びだ。
「しかし早く終わったのう」
「そうなのか?」
「攻城戦とは、入るまでに何日も掛かる場合もあるんじゃ。壁に近付くのが大変じゃからな」
「ふ~ん。ヤコなら壁とか関係ないと思ってた」
「妾がいれば、そりゃすぐに終わる。一夜にして敵の城主の首を掻き切ったりな」
「門を開けるだけじゃないんだ……」
シモンも役に立てたと思っていたのに、ヤコビーネの化け物っぷりを聞いて「俺たちいらなかったのでは?」と意見が変わった。
「さて……いちおう指揮官殿に声を掛けてから帰るとするか」
「指揮官殿って……その顔、絶対に指揮官殿に見せられる顔じゃないぞ? ……お~い??」
「うるさいのう。下僕は下僕らしく、さっさと片付けせい」
プーシーユーの仕事は終了。しかし、ヤコビーネがトウンに対して急に呼び方が変わったので、シモンたちは「なんまんだぶ」と念仏を唱えながら撤収作業をするのであった。
高台から下山したシモンたちは馬車に揺られて要塞へ。破壊された門の前に立つ屈強な体の冒険者に声を掛けたら、「こっちこい!」と連行されそうになった。
涙目の冒険者の後に続く苦笑いのシモンたち。冒険者が涙目な理由は、ヤコビーネにどつかれたからです。
そうして魔獣の死体や血だまりを避けて歩いていたら、綺麗とは言えないが損傷の少ない部屋に通された。
「おい! てめぇら! いったい何をしやがった!?」
部屋に入るなりトウンが怒りの表情で詰め寄るので、シモンは両手を顔まで上げて降参ポーズだ。
「落ち着け。言ってる意味がわからない」
「はあ? あの攻撃だよ! そのせいで俺たちはめちゃくちゃ楽になったんだからな!!」
「だから落ち着けって。どのせいかわからないけど、俺たちのおかげってことか??」
「ああ~。クソ! なんでわっかんねぇだよ!!」
怒っているのか感謝されているのかわからないから伝わらないのだ。しかしトウンはいまにも手が出そうなので、シモンも何か言わないとならない。
「もういいか?」
でも、ヤコビーネが割り込んで来たからストップだ。
「何もよくないかな~?」
「何がじゃ。もう作戦は終了したじゃろ?」
「作戦は帰るまでが作戦じゃないかな~?」
「何を……」
「何をゴチャゴチャやってるんだ!!」
シモンは嫌な予感しかしないからやんわりと止めていたのに、今度はトウンに割り込まれてしまった。セリフを取られたヤコビーネはご機嫌斜めだ。
「要するに、お前は妾に喧嘩を売っておるんじゃな??」
「そんな話、ひとつも出てないよ~?」
「ああ! そうだ!!」
「君もそんなこと一言もいってなかったよね?」
「「表に出ろ!」」
「なんで揃うのかな~??」
どうシモンが丸く収めようとしても、2人は止まらず。本当に外に出て行くから、シモンたちも追いかけるしかなかった。
「あ~あ……」
「あれ、生きとるん?」
「頭、割れとりません?」
ヤコビーネとトウンの喧嘩は、最初は拮抗していたけどヤコビーネが手を抜いていただけ。本気を出したヤコビーネにボコボコに殴られたトウンは、最後の手刀を頭に喰らって血がブッシューってなってたよ。
シモンは「言わんこっちゃない」と頭を抱えて、プックとユーチェがあわあわしていたら、ヤコビーネが勢いよく振り返った。
「というワケで、妾たち秘密部隊の活躍は他言無用じゃ。わかったな??」
「「「「「……」」」」」
「全員、こいつみたいにしたほうが早いか?」
「「「「「いえ! わかりました!!」」」」」
そして殺気を飛ばして脅すので、女神軍は全員気を付けだ。
「「どういうワケなん?」」
「俺に聞くな」
プックとユーチェは女神軍が言えなかったことを代弁してくれたけど、シモンにすらその理由はわからないのであった。
これは強者だけが許されるワガママなのだから……
ところ変わって、要塞から東にある女神軍の防衛線。蒼き群雄が本部に待機していたら、朗報が届いた。
「え……あの要塞を1日で攻略したって??」
今日行われる作戦は蒼き群雄にも共有されていたが、あまりのことに驚いていた。
「てか、トウンが5日で終わらせてやるって息巻いてたんじゃなかったっけ?」
「アールトは10日は掛けて負傷者を減らすように説得していた」
カティンカとダフネは奪還作戦の内容を思い出した。あの要塞は1日で落とせるような代物じゃなかったからだ。
アールトも何があったのかと考えてみたら、急に参加した部隊があったことを思い出した。
「国王直属秘密部隊……」
「ああ~……なんかいたね。冒険者は王子様辺りを無理矢理捻じ込んだとか噂してたヤツ」
「あの王様に限ってそんなことしない」
秘密部隊なのに冒険者の中では話題の的。ポッと出でメンバーも何も知らされていないことは、これが初めてだったからだ。
「攻城戦で一番大変なことは?」
「そりゃ上からの攻撃ね。下から狙うと外壁が邪魔になるし」
「魔法使いがなんとかしてくれないと近付けない」
「うん。そうだね。もしもこれを簡単に取り除く方法があるとしたら、どうしたらいいと思う??」
アールトの質問に蒼き群雄はいまある戦法でしか答えられなかった。そこでアールトは要塞近辺の地図を持って来て、指差して説明する。
「ここ、高台があるのわかるだろ?」
「わかるけど……要塞から1キロ以上離れてるわよ? ここからじゃ魔法なんて届かないわよ」
「だね。でも、僕たちは1人だけ、1キロ以上先から攻撃ができる人を知っているはずだ」
この質問には蒼き群雄、一瞬にして答えが浮かぶ。
「「シモン!」」
「「シモンさん!」」
そう、勇者パーティを長距離から射抜いたシモンだ。
「あはははは。ついに来たね」
「待ってたわよ~」
「本当に来たんだね」
「やると思ってた」
「どんな顔だったかな~?」
こうして蒼き群雄は、この十層でシモンが一緒に戦ってくれているのだと確信して、大いに喜ぶのであった。




