躾
すみません、祖父の葬儀でゴタゴタしてしまい内容薄めです。
「………」
声にならない音が、少女の喉を通過した。上手い男だ。いとも容易く少女の心を折った。
「ごめん、ごめん…」
少女がこちらを向いて、泣きそうな顔をしている。たどたどしい言葉すらも、痛ましく映った。
「何も気にすることはない。…元より、連れていかれる予定だったしな」
後半の言葉は少女の耳に寄せて、アーカスや護衛にも聞こえないように話す。
少女は疑問を持ったようだったが、特に追及はしなかった。
「美しい友情だねぇ。こんなドブみたいな場所でも育まれるものがあるなんて、おじさん感動!」
身悶えするアーカス。心底醜く、歪んだものだった。外に連れ出されたとき、どのように身動きを取るか…。少なくとも王都の外に出るのなら、クラウスが煙を見つけるまでかなり時間がかかるだろう。
思案を巡らせていると、ふと扉の開く音がした。
「おっ、ようやく来たねぇ」
どうやら、荷運び用の傭兵が到着したようだった。強さは…おそらく、あの門番とそう変わらないだろう。人数は4人。また人数が増えたな。
「無茶いわねぇでくださいよ、アーカスの旦那」
随分とラフな物言いでアーカスへ言葉を返す傭兵。実力こそ大したものではなさそうだが、かなり手慣れたような雰囲気を感じる。
「悪かったねぇ。それじゃそこにおいてある箱、三人で運んで。あと一人は僕たちの後ろについて、奴隷が逃げないようにね?」
いつの間にか、あの門番が運んできていた箱は三つに増えていた。アーカスが奴隷を選んでいる合間にでも運んできたのだろう。
「わかりやした。…にしても、相変わらず奴隷は拘束しないんですか?」
「もちろんじゃないの。逃げ出すような生意気な奴隷に、実力差っていうのを教えるのも大事だからねぇ?」
――。本当に、醜悪なものだ。やはり奴隷制というのは害悪しか生まない。
「ははぁ。それで何になるんです?ほら、何もなかったらただ手間が増えるだけじゃないですか」
愉悦のためだけにしているんだろう。こういった輩は碌なもんじゃない。
「いやね、ちゃんとした理由もあるんだよ?ちゃんとここで躾けておくことで、仕入先での粗相が減るんだぁ。だから僕って評判がいいわけ」
「お前たちはッ、人を何だと思っている!!」
思わず、喉を突いて出た言葉だった。できるだけ警戒させるようなことは避けたかったが、我が民をここまで貶める存在を前に、我慢ができなかった。
「ふふ、んふふ。ね、こういうのを躾けたらどうなるか、楽しみで仕方がない!」
「おいおい、少年。あんまり同じにしないでくれやすかね…。一応、雇われてるだけですんで」
俺の言葉は、軽くいなされた。…当たり前か。もはやこいつらに、倫理などないのだから。
「期待してるよぉ。少年」
檻から鼻先が出るような、それほどまで顔を近づけて、アーカスは粘り気のある言葉を放った。
***
それからしばらく、奴らは進路や荷の運び方について話していた。聞き耳を立てて分かったことは、やはり“スポンサー”という者が彼らを多分に渡って支援していること。また、“スポンサー”はかなりの権力者であることが推測された。
検問を無証券で通過させるなど、並大抵の者にはできないだろう。そのあたりの精査も今後しなければならないな…。この事件に権力者の介入などなかったはずだ。
「よし、じゃあ行こうか。僕が呼んだ子、出てきてね」
門番が檻の鍵を開ける。呼ばれた子供たちが、怯えた足取りで外へ出ていった。俺も、少女も、その列に加わる。
選ばれなかった子供たちは、こちらを見ようとしなかった。




