6 " 渾沌 "の戦闘
転生直後にぶつかり合う渾沌と渾沌!!
その力の片鱗をとくとご覧あれ~!
「じゃ、早速始めようか?」
私がそう言った瞬間――
「おらぁっ!」
オルクスは一瞬にして拳の間合いまで近づくと、手加減の無い振り抜きで棒立ちの私に拳を突き出した。
「ちょっ……」
その容赦のない不意の一撃に、私は咄嗟に両腕をクロスしてガードの体制を取ったが、そのあまりにも強い衝撃に耐えきれずに思いっきり吹き飛ばされ、強化ガラスが張られた窓を軽々と突き破って地上140階という超高度から自由落下していく。
「オルクスの馬鹿…………よーいどんもなしに早速能力で身体強化加えて殴りかかってくるとか……」
どんどん落下していく速度が上がっていくのを感じながら私はそうボヤく。
先程の一撃で、何の身体強化もしていなかった私の両腕は粉砕骨折していた。
「痛いなぁ……いくら直ぐに治せるからって何も粉砕骨折までさせなくたっていいだろうに……」
折れた両腕がプラプラと落下している時の風で折れた部分から先が無気力に揺れるのが視界に入って、『自分の体の事になると慣れないなぁ……』と思いつつ能力で瞬時に再生し、両腕に力が戻る。
今回の粉砕骨折は私の能力である《 悠久の華 》の力を大きく四種の権能に分けたうちの1つ、『 創造犀星 』によって治った。これは生のエネルギーを操るもので、これによりどれだけ大怪我を負ったり、物が壊れたりしても元通り、若しくは最盛期の状態に再生させることができる。とても簡単に言ってしまえば無から有を生み出す力。
「さて……こっから最上階まで戻るの面倒だなぁ……」
落下しているという現在の状況は大した問題では無いという様に私はそう呟く。
少しどうするか悩んでいると、私が突き破った窓ガラスの所から私と同じように落下してくる人物が見えた。オルクスだ。
「あら、気にする必要なくなったね」
私はそう呟きながらそろそろ地面に着く事に気づくと、背を向けて落ちていた体勢を猫のようにゆるりと足を地面に向ける体勢へと整えて地面に衝突する寸前で私の体がふわりと浮いたかと思えば、直ぐに重力を取り戻して着地する。
「……『 雪月風花 』に『 創造犀星 』か。相変わらず便利な力持ってやがるぜ全く」
ズドォォォォン!!!!!と、凄まじい音と衝撃波を撒き散らしながら着地したオルクスは、超高度からの落下や殴られた両腕などでも平気そうな私を見て呆れたように言った。
『 雪月風花 』や『 創造犀星 』は全て《 悠久の華 》という一つの能力に内包されている力の応用系に名前を付けただけに過ぎない。
「あのさぁあ?ここ、私の領域なの。あんたの領域じゃないんだから何でもかんでも壊すの辞めてもらえるかしらね?」
私が怒り気味にそう言うと、オルクスは「ごめんごめん」と軽く謝るように言った。
「それにしてもよ、お前の能力はそれで全力じゃねぇってのがまた更に恐ろしいとこだよなぁ」
オルクスはやれやれと言わんばかりの態度でそう言う。
「はぁ……それをあんたが言うか……!
私たち 『 渾沌の世代 』は全員そうでしょうに」
私は全くと言っていいほど本気を出していない。
――いや、出せていないと言った方が正しいだろうか。尤も、これに関してはオルクスも同様であることに変わりないのだが。
転生したての『 渾沌の世代 』はその魂魄に内包された膨大な情報に転生体が耐えきれず、上書き保存に必要な情報を一気に処理することが出来ない。それ故に、細かい条件の違いはあれど転生の完了にはそこそこ時間が必要なのだ。
転生は肉体年齢や知識、知能が高いほど早く情報を処理できるため肉体に馴染むのが早くなる。つまりは転生の完了がそれだけ早くなるということ。
しかし、だ。転生体に芽生えた仮の自我が成熟していく程に肉体の主導権の上書き保存が上手く行きにくくなる。肉体の主導権はいくら仮の自我と言えども現在表層に出ている方の自我の方が持っているからだ。
もし仮の自我に主導権の交代を拒まれた場合、私たちは力ずくで仮の自我を精神世界で捩じ伏せて屈服させ、転生を完了させる為に主導権を貰わなければいけない。その点に関しては、今回は比較的穏便に事が進んだと思う。
「ハッ、笑わせるぜ。今の俺の最大出力の拳を喰らっておきながらピンピンしやがって、化け物が」
オルクスは「手前が1番とち狂った力量してんだよ」とでも言いたげに皮肉混じりのその言葉を投げかけてくる。
「あの高さからただの身体強化だけで無事に降りてこられてるのも十分化け物よ」
ため息を吐きながら私は『 千変万華 』と呟いてそこに何処からか出現した長身の漆を塗ったかのように漆黒に輝く刀身の日本刀の柄を右手に握った。
引き続き自らの身体能力を大幅に向上させ、オルクスに一瞬で接近する。この時の動きは、動き出す瞬間までがスタートダッシュを決める前に深呼吸をする陸上選手のようにゆっくりとした速度だったのに対し、動き出した瞬間は凄まじい蹴りの力で抉れた地面を視認した時には既に誰にも追えないような速度で近づいているのだ。
私がオルクスにそうして接近したあと、その高速の動きの勢いに乗せて寸分違わず的確にオルクスの首を狙う。
「――っ……!」
刀身に込められた殺気でも感じ取ったのか、一瞬のうちに接近した私と首を狙われる感覚でオルクスが引きつった笑顔を浮かべていつの間にか握られていたリボルバーで日本刀の刀身を寸前のところで止めることに成功していた。
「……っぶねぇ…………今のは本気で死ぬとこだったぞ」
冷や汗を頬に垂らしながらオルクスは言うと、日本刀を押し返して後退して距離を取ると、リボルバーで私に攻撃を仕掛けた。
「これくらいないと準備運動にもならないでしょう?まさか、オルクスともあろう者が平和ボケなんてしてないでしょうね?」
「……ハッ、言ってろ。化け物巫女が」
互いに言葉を交わしながら、互いに攻撃を仕掛ける。
私に向かって放たれた眉間・心臓・鳩尾という急所という急所を狙った正確な3発の弾丸。
一発目は眉間を狙われた弾丸。上がりに上がった身体能力と動体視力によって最小限の動きで避ける。これは顔を掠るギリギリの所を弾丸が通り過ぎて行った。
二発目は心臓を狙われた弾丸。どんなに優秀なガンナーであろうと、一丁の銃から同時に弾丸を打ち出すことはできない。必ず遅れというものが発生する。故に、私は日本刀を振り下ろし、弾丸を真っ二つに割った。
三発目は鳩尾を狙われた弾丸。これは二発目で振り下ろした刀身の向きを即座に変えて振り上げる事で、到着寸前の所を斬り裂いた。
この3つの弾丸は人体の急所を狙われ、そして発射までのラグがコンマ1秒レベルまで短縮されていた早撃ち。
何故私たちがあの様な普通なら死んでいてもおかしくないような攻撃を平然と仕掛けているのか。それは今まで幾度となく繰り返した人生の中で、互いの実力は唯一拮抗し合っていたと言ってもいい。故の手加減無用。本気でやっても、この相手ならば絶対にそれに応えてくれる。ある意味での信頼だ。
「平然と避けたり斬ったりしやがって……」
「そっちこそ、私の斬撃を紙一重で受け止めちゃって」
互いに不服そうな表情をしながら言い合う。
「「はぁ??」」
「うるせぇ!」
「うるさい!」
揃って言葉を吐いたと思えば、2人揃って手を突き出した。――
「――『 雪月風花 』黒灰炎」
「――《 災厄の継承》 火災旋風」
私とオルクスは同時に得物を持っていない左手を突き出し、能力を発動する。
私が放ったのは《 悠久の華 》に内包された、着地する時に風を起こすのに使った『 雪月風花 』という権能。その力の真髄は " 自然の力を操る " ことにある。
自然界に存在するあらゆる力を自由自在に操れる。その力をもって、私はオルクスに " 黒灰炎 " という特別製の炎を巨大な爆弾を象るように調整して放った。
" 黒灰炎 " は文字通りの黒色の炎。炎が黒くなるのは通常、空気中の酸素不足や炎の温度が極端に低い時。ただ、この炎は私の能力で創り出した炎。
私の創り出した黒い炎は全てを焼く。温度の低い炎でありながら物質を焼き尽くす力を持ち、その灰を以て更に燃焼は加速していく。
触れたものを灰とし、灰を取り込み膨張、当然空気中の酸素も取り込み通常の燃焼も行う。
その反応は酸化を引き起こし、大部分は二酸化炭素になり、ほんの一部が一酸化炭素になるのが普通だろう。しかし、黒い炎は酸素不足の炎の判定を持つ。故に酸素不足でも取り込んだ酸素は通常2つの酸素原子で1つの炭素原子に結合して二酸化炭素になるはずのものが、全ての取り込んだ酸素が1つの酸素原子と1つの炭素原子で結合することになる。
これによって、周囲の空気は屋外であろうとも一酸化炭素中毒を引き起こすレベルの一酸化炭素が充満することになる。
これが、 " 黒灰炎 " の恐ろしい所だろう。
対するオルクスが放ったのは《 災厄の継承》 の " 歴史上の災厄を再現する " という権能を使用して放った火災旋風だ。
オルクスの権能の厄介な所は、再現する災厄は多少自己解釈を加えてもいいという所にある。
火災旋風は通常、炎が周囲の空気を急速に取り込むことで発生する強い上昇気流に炎が乗せられて発生する超常現象とも言える災害だ。その為、本来のものを再現したなら炎の進行方向は上だ。しかし、オルクスの再現したものの進行方向は私に向かって一直線だ。
これがまさに厄介なこと。自己解釈によって歪められた法則性を持つ再現災厄は、使用者の望むように敵を殲滅する為の動きをする。そこに常識は通用しない。
まぁ、あまりにも常識外れすぎると出来ないっていう一応の制約はあるっぽいけど。
だとしても、災厄の数や範囲を限定する事で単純な威力や操作性を格段に上げている分かなり厄介なんだけど。
オルクスはきっと論理的なことを言っても対して理解できないだろう。彼は完全に感覚派のタイプだから。そして、そのタイプだからこそオルクスの能力との相性が良いとも言える。
2つの炎を介した大技が炸裂する。ぶつかり合う炎と炎が、互いを焼き尽くさんと更に膨張していき、枯渇してきた酸素を更に取り込もうと発生した上昇気流に乗せられて拮抗するようにしながら黒色と赤色の炎の尾を引いて上空へと舞い上がっていく。その様相はまるで2頭の龍であった。
やがて2つの炎は膨張に耐えきれなくなり、形を保てずに爆発する。さながら核爆弾でも落ちたかのように。空中のみならず、地上にもその余波と爆風は届いた。
いかがでしたか?
何が恐ろしいって、これでまだ互いに今の時点での本気の力を見せていない所なんです。
能力戦闘は遅筆な私でもすらすらと進んでいく位には楽しいのです。なので、読んでいただける皆様にも楽しんでいただけると嬉しいです!




