九十二、覚悟
「急激な気圧変化にも適応できるようにはしたが、くれぐれも其奴の背から落ちる出ないぞ。」
「はい!」
「ひぃぃぃ…。」
大木の幹くらいの太さの、鱗に覆われた龍の胴体に私と雫ちゃんはがっしりとしがみついた。
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『あやつを鎮めたいのであれば、おそらく精神世界に入ることが必要だ。』
龍からの提案。それは、龍我の精神世界に直接入り込み、核である本人の意識に語りかけるというものだった。
「あんたの協力があれば、他人の精神世界にも干渉できる言うんか?」
恭士さんの問いかけに、龍は頷く。
『但し、本来龍以外の異世界移動は御法度。どのような副作用が出るかも分からぬ。最悪、元のこちら側に戻ることが出来ない可能性もある。』
問題解決にリスクはつきもの。本来干渉不可能な領域に足を踏み入れるのだから、それなりの代償はあるかもしれない。…だけど。
「迷ってる時間は無い。行きます。」
このままだと、龍我自身の問題だけでなく、龍我が起こした気候による被害が拡大してしまう。
するとその時、意外な人物が声を上げた。
「あ…あああのっ!私も…いきますっ!!!」
相変わらず挙動不審な雫ちゃんが、控えめに手を挙げていた。
でもここは、下手に人数を増やすのは得策では無いし、何より私たち楯本の人間の問題だ。巻き込みたく無い。
「雫ちゃん、気持ちはありがたいけど、さっき言われたように戻ってこれるかも分かんないって…。」
「理解っ…してますっ!!!」
いつも小さな声でしか話さない雫ちゃんが、珍しく声を張り上げる。
「あ…あの…えっと…説得するなら、まず相手がどう思ってるか知る必要があると思い…ます。私の力が…役に立つかもって…思って。」
雫ちゃんが、震えながらそう訴えてきた。しかし、その怯えるような態度とは対照的に彼女の瞳はひどく真っ直ぐだった。
人間と妖怪の間に生まれた半妖。
人の心が読める、サトリ。
見えない痛みに、人の何倍も敏感な彼女。
「…一緒に来てくれる?」
「おい、千晶!」
私の問いかけに力強く頷く雫ちゃん。それに反対し、声をあげる拳心さん。
「大丈夫。絶対帰ってきます。3人で…ね?」
そうだ。
全員で帰って来るんだ。
誰一人、欠けることなく。
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龍が上昇の態勢をとり、その周囲だけ風の向きが変わる。
「気をつけや。」
声の方に視線を動かすと、心配そうな顔をした恭士さんがいた。
「…はいっ!」
『飛ぶぞっ!!!』
龍の合図と共に、青空へと急上昇する。
「うっ…わぁぁぁぁぁぁ!!!」
「っっっ!!!」
振り落とされないよう、ガッチリと龍の背につかまる。
目指すは高度16,000m。
雲の上の遥か彼方。
ーー闇に覆われたその先へ。




