八十三、辰の式神
「龍我!!!」
家を飛び出して行った龍我を追いかけて、私は山の方へ走った。
私が走るこの道路の横には川が流れていて、山の1番上にはダムが存在する。
探し人はそのダムのコンクリートの上に座りこみ、虚な目で空を見上げていた。
大きな声で名前を呼んだ、その時だった。
川の水がまるで生き物の様に蠢き、私の目の前で龍我が水中に引きずり込まれていった。
何が起こったのか分からず、慌てて龍我が引きずられたところまで駆け寄る。
すると突然、水中から大きな水飛沫があがった。
「っ…!えっ…!?」
ーーキィュウンッ!
初めて聞く、謎の生き物の鳴き声。
大きくあがった水飛沫の隙間から現れる、巨大な影。
触れられそうで触れられない、蛇の様な水色の生き物が、天空へと勢いよく一直線に昇って行く。
驚きのあまり後ずさると、足がコンクリートからはみ出して、私はバランスを崩した。
空高く昇る龍と星空が急に遠くなっていく。
「うっ…わぁぁぁあああぁぁぁ!!!…あ…れ?」
「ったく…、自分色んなとこで転びすぎやろ。もうちょい足元気をつけなアカンで。」
「恭士さん!?」
頭ぶつける!
という焦りは、僅か1秒足らずで私の中から消え去ることになった。陰陽師化した恭士さんが、私を受け止めて難を逃れることとなったのだ。
そっと下ろされて周りを見ると、茉恋さんたちの姿も見える。
「あの…もしかしてこれって…。」
「あぁ…。」
龍が遠くへ飛んでいき、見えなくなって間もなくゴロゴロと雷の音が鳴り響いた。黒い雨雲が空を覆い、力強い雨風が地上を襲う。
「『辰』の…式神や。」




