八十一、激昂
「龍我ー?ご飯だよー!」
「んー…。今行く。」
学校から帰ってきて、いつの間にか寝てしまったらしい。
夕食だと俺を呼ぶ千晶の声に起こされ、もそもそと茶の間へ行く準備をする。
扉を開けたその時…。
「ただいまぁ。」
「お帰り。」
帰宅した奴の声を聞いて、俺は思わず顔をしかめる。
茶の間に入って来た千晶の母親、叔母と目が合ったが、知らない振りをして前を通り過ぎる。
「お?どうしたよ。おばちゃんにおかえりのチューは無いのか?ほれほれ。」
ーーうぜぇ。
この人はいつもこれだ、人の機嫌が悪いの分かってて、にやにやしながら絡んでくる。
笑わせようとしてんのかも知れないけど、むしろ逆効果だ。余計イライラする。
ご飯をテーブルに運びながら、千晶は呆れている。
「またそんな馬鹿言って…。高2男子にウザ絡みするのいい加減やめなって…。」
ーーバァンッ!
イライラを押さえきれず、ついガラスの引き戸を乱暴にスライドさせた。
その直後、叔母の腕が下から俺の胸ぐらを掴んでいた。
「いい加減にしろよこのぉっ!!!テメェ1人の家じゃねぇんだよ!バスケだかなんだか知らねぇけど、自分がやりたくてやってることで上手くいかないからって、他のモンに当たってんじゃねぇ!!!」
「うっせぇよ!!!そこまで分かってんならお前だってわざわざ煽る必要ねぇだろ!!!」
「やんのかゴラァ!!!」
「やってやるよ!!!覚悟しろ!!!」
「ちょっ…2人ともやめてよ!」
そこから俺と叔母は、取っ組み合いの大乱闘を始めた。
俺の拳で叔母の眼鏡は吹っ飛び、叔母は俺にのしかかって来る。
「だから中学の時にもおばちゃん言っただろ!!!部活なんて将来の役に立たないものに熱中してないで勉強しろって!!!ほれ見ろ!!!おばちゃんの言う通りだ!!!お前が大事に守ったもんが今のお前に何してくれてんだよ!!!あぁっ!?」
ーーブチンッ。
頭の中で、何かが切れる音がした。
俺に馬乗りになっていた叔母を弾き飛ばし、渾身の力を込めて腹を蹴り飛ばす。
「お前ら何やってんだ!!!」
その一言で、突然正気に引き戻された。
後ろを振り返ると、いつの間にか帰ってきた爺ちゃんが、玄関先で眼を三角にして、怒りの炎を静かに揺らしていた。
「っ…!」
「あっ、ちょっ…龍我!」
その横を通り抜け、外に飛び出す。
山の方へ山の方へと、俺は暗い夜の山道へ全速力で駆け出した。




